HOTパーソン

世界初「人工流れ星」を夜空に!

ALE・岡島礼奈CEOインタビュー

人類が初めて宇宙に到達してから約60年が経った今、宇宙産業は大きな変化を遂げている。かつては各国が開発競争を繰り広げた宇宙分野に民間が相次ぎ参入。テクノロジーの進化で探査機・衛星の打ち上げや宇宙旅行などが以前と比べて容易になった。そんな宇宙ビジネスの舞台で、注目を集める企業の一つがALE(エール、東京都港区)だ。世界初となる「人工流れ星」を実現し、宇宙空間を活用したエンターテインメントを届ける構想を描く、岡島礼奈 代表取締役CEOに、事業構想や宇宙ビジネスへの考え方などを語ってもらった。

 ―「人工流れ星」の着想を得たきっかけは。

「大学で天文学を学んでいた2001年頃、しし座流星群を友人と観に行った時の雑談からアイデアが生まれました。流れ星は宇宙を漂う『チリ』だから、小さな粒 で再現すれば つくれるよね、と。当時は本気で実現しようとしていた訳ではなかったですが、そのときのイメージがずっと頭の中にありました」

 -ALEを起業する前は大学院で博士課程を修了後、金融機関などで勤務されています。

基礎研究に携わっていましたが、研究を続けるなかで大学に残るのではなく科学を発展させるために何かしたいと思うようになりました。日本の基礎研究の大半は公的資金で行われており、予算を得るために研究者が苦労している姿を見てきました。研究者が自らのリソースを研究活動 に十分に使えない状況を疑問に思い、何か新しい仕組みで研究資金を回せないか考えていました。そして、金融機関に入ればお金の流れを勉強できるのではと思い立ち、当時、資本主義の中心ともいえる外資系投資銀行に入りました。金融は全くの専門外でしたが、資金調達や投資家の考え方などが分かるようになり、起業において役立ちました」

「ビジネスを通じて科学の発展に貢献したい」と岡島CEO

 -そのときの思いが、事業の方向性にも反映されていると。

「その通りです。ALEのミッションを『科学を社会につなぎ 宇宙を文化圏にする』と定めていますが、その根底には科学の発展に貢献したいという思いがあります。プロジェクトの中で、専門家と連携しながら観測データなどの提供や解析などを同時に行うなど、基礎研究を手助けできるような形で事業展開しています」

宇宙エンタメで科学の発展に貢献へ

 -人工流れ星で 多くの人が共有できる星空を演出できることは、エンタメとしての魅力に加え、科学の発展の観点からもとても画期的ですね。

「人工流れ星は、上空約400キロメートルの軌道上の衛星から、球状の粒(流星源)を放出します。流星源が大気圏に突入し、燃え尽きる際に発光する光が流れ星となるのです。直径約200キロメートルの範囲で星空を眺めることができます。現在は観光関連など複数のプロジェクトが進んでおり、実現に向けて開発を進めています 。多くの人にエンターテインメントとして流れ星を提供すると同時に、専門家による観測を計画しています。例えば、人工流れ星から得られる中層大気データは、気候変動メカニズムの解明につながる手がかりなどとしても活用が期待できます」

 -実現が見えてきましたね。宇宙ビジネスは収益化するまでに時間がかかると言われていますが、現在に至るまでにさまざまな苦労があったのでは。

「そうですね。創業当時は本当にゼロからのスタートで、人工流れ星の実現可能性についてアドバイスをいただける専門家を探すことから始めました。当初は大学の先生方との共同研究という形でしたが、2015年頃から投資家の出資を得る事ができました。その後も資金難や人工衛星の動作不良など度重なる危機に見舞われましたが、メンバーそれぞれが宇宙・科学への想いや好奇心を失わずに事業を続けることができています」

宇宙エンターテインメント事業「Sky Canvas」は世界初 人工流れ星 の実現を目指す(イメージ)(?2022 ALE Co., Ltd.)

大気データの需要高まる

 -人工流れ星事業のほかにも、大気データの取得・解析やスペースデブリ(宇宙ゴミ)対策事業などを展開しています。今後の展望をどのように描いていますか。

「大気データ事業は当社の小型衛星 を活用し、対流圏から中間圏のデータ取得に向けた研究を行っています。気象予報精度の向上や、気候変動メカニズムの解明に寄与することを目指しています。ALEが中心となり、民間気象衛星の開発に向けた産学連携プロジェクトも進行中です。気候変動問題への関心などからデータの需要は高まっており、将来は同事業が収益の柱になるとみています。また、宇宙航空研究開発機構(JAXA)とスペースデブリ 対策装置の共同開発が進行中で、使用を終えた宇宙機 を軌道離脱させる技術を研究しています」

 -宇宙ビジネスを手がける日本のベンチャー企業が増えており、大型の資金調達を行うなどの動きもあります。日本の宇宙産業の現状や課題をどうみていますか。

「スタートアップの資金調達環境は良くなってきており、助成金やファンド出資など国のサポートも拡充していると思います。しかし、宇宙ビジネスは研究開発、実証実験を繰り返すため、事業化までにかなりの時間を要します。売り上げが立たない期間が長く、外部からの信用をいかに獲得するかが難しい課題だと感じています。現状、日本の宇宙産業は国プロ関係が中心ですが、例えば、米国のように企業の成果物を国が買い上げることでのサポートも可能ではないかと思います。また、2018年に宇宙活動法が施行され、法制面で環境が整いつつあるので、今後、関係者の実態に沿った柔軟な運用をしていただきたいと思います」

<プロフィール> おかじま・れな 東京大学理学部天文学科を卒業後、2008年同大学理学系研究科で博士後期課程修了。同年米ゴールドマン・サックス証券に入社。コンサルティング会社を経て、2011年ALE設立。