政策特集サーキュラー・エコノミー移行への第一歩 vol.5

プラ法から始まるサーキュラー・エコノミーへの移行

中部大学・細田衛士教授インタビュー

中部大学 副学長 経営情報学部 細田衛士教授

 循環経済への移行に向けた再設計(Redesign)-。プラスチック資源循環促進法(プラ法)の基となった意見具申「今後のプラスチック資源循環施策のあり方について」に記された一節だ。プラを中心に国内の資源循環を促すことで、持続可能な社会の実現を見据える。プラ法の施行で世の中はどう変わるのか。ワーキンググループ(WG)の座長として議論をとりまとめた中部大学副学長・経営情報学部教授の細田衛士氏に聞いた。※所属は3月31日時点

プラ法はCEへの移行に向けたチャンス

 -日本では資源や廃棄物の分別収集、再資源化などについて容器包装、家電、自動車といった製品・用途ごとに定める各種リサイクル法があります。今回、プラ素材に焦点を当てた法律が議論された背景は。

 「プラはさまざまな工業製品や容器包装に使われています。その中でも、例えばペットボトルは高度なリサイクルが実現していますが、プラ全体では焼却によるエネルギー回収(熱回収)が中心です。リサイクル法の対象となるどの製品・用途も、プラが再生利用率向上のボトルネックになっています。廃プラ問題への関心が高まる中で、それらを包括的にどう循環利用するか考える必要があります」

 -海洋プラごみを皮切りに、世界中で廃プラ問題への関心が集まりました。

 「廃プラ問題が注目される以前は、素材の利便性ばかりが注目され、廃棄後の対応が後手に回っていました。近年は諸外国が廃プラ輸入を規制するようになり、欧州や日本などは国内で処理することが求められました。さらに、地球温暖化などを背景に、循環型社会の形成に向けた議論がなされ、プラ分野でもCO2を排出する熱回収から、循環利用を中心とする仕組みへのシフトを促す潮目の変化がありました」

 -プラ法の議論では、限られた資源を繰り返し利用することで資源循環と経済成長の両立を目指すサーキュラー・エコノミー(循環経済、CE)への移行について触れ、法制化の必要性に言及しました。

 「資源から素材が生産され製品として使われるまでの取引を『動脈連鎖』、生産・消費活動から排出される使用済み製品や素材、残渣物などを再資源化して動脈連鎖に再投入することを『静脈連鎖』と称しますが、この動静脈をつなげて考えない限りは政策は上手く機能しません。後者(静脈)の活動は市場経済が完全に機能せず、企業の自発的な工夫や取り組みは起きにくくなります。プラのように多様な製品に使われライフサイクルを追いづらい素材はなおさらです。静脈ロジスティックスの整備やCEの考え方に沿った企業の取り組みを後押しするなど、国や行政の方針として行うことが求められます」

オンラインで取材に応じる細田教授


 -プラ法の施行により、世の中がどう変わることを期待していますか。

 「プラの動静脈連鎖を制御する初めての法律です。例えば、環境配慮設計は利便性のために廃棄のコストを無視した設計を止めようという企業の取り組みを後押しします。さらに、使い捨てプラの使用の合理化により、ホテルや小売店などで消費者が資源循環について考える機会があれば『廃棄しづらい製品を安易に使わない』といった行動変容が期待できます。世界中でプラごみをめぐる問題に関心が集まり、環境への影響を意識しはじめた方も多いでしょう。資源循環を後押しし、CEへの移行に向けた取り組みを促すチャンスになると思います」

マイルストーンが一つの指標に

 -プラ法は規制を最小限に抑え自主的な取り組みを期待する内容ですが、その実効性をどうみていますか。

 「その点は施行から数年単位での検証が必要でしょう。その上で、国のプラスチック資源循環戦略で定めたマイルストーンの達成率は一つの指標になり得ます。また、先進的な取り組みを行う企業や自治体へのインセンティブがなくてはなりません。例えば、今後国の認定を受けた設計のプラ製品はグリーン購入法上の配慮を行うほか、製品プラの一括回収に取り組む自治体に地方交付税などで一部費用が手当される予定です」

「プラスチック資源循環戦略」で掲げられたマイルストーン


 「それでもリサイクル費用や再生材を使用した場合のコスト増を、民間企業が製品・サービス価格に転嫁できるかなど難しい問題が残ります。プラは幅広い製品に使われ、あらゆる生活の場面や産業構造に関わっています。公平な課金モデルを形成することは難しく、帰するところ企業や消費者などが資源循環に意識を向けることが、法律の実効性を高めることにつながります」

 -資源循環やCE実現に向けた取り組みの促進には、法制度を整備するだけでなく、企業、団体、自治体などによる連携や、消費者の行動変容が必要だとされています。

 「プラ資源循環の促進、その先のCEへの移行は『ゴミを捨てたときにどうなるか』という発想が社会の中に染み込んでいかない限り実現は難しいでしょう。とはいえ、一歩踏み出そうとする企業や人びとは増えているように感じます。経団連が参画する「循環経済パートナーシップ(J4CE)」、多くの民間企業・団体が集まる「クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス(CLOMA)」など、動静脈連鎖に関わる企業が自主的に連携する動きが広がっています」

 「消費者の間でも2020年のレジ袋有料化で辞退率が高まったように、日本人には社会へのメッセージを理解するメンタリティがあるのだと思います。プラ法は『使い捨ては抑制し、どうしても廃棄するときはリユースやリサイクルの確立されたルートに回す』というライフサイクル全体を意識した行動を関係者に求めるものです。同法の施行が資源循環やこうした行動について、考えるきっかけになることを期待しています」
 

 ほそだ・えいじ 慶應義塾大学経済学部教授を経て、2019年から中部大学経営情報学部教授、2021年から副学長。2022年4月から東海大学副学長・政治経済学部経済学科教授。環境経済学の専門家として、国の中央環境審議会などの委員を歴任。産業構造審議会プラスチック資源循環戦略WG(2020年5月~)では座長を務める。
 
 
※本特集はこれでおわりです。次回は「文化と経済の好循環の創出~経産省が文化経済政策に取り組む意義」を特集します。