ゴムのモノづくりで世の中の〝当たり前〟を変えていく
大阪府八尾市の錦城護謨
シリコーンゴムの特性を生かした製品開発
シリコーンゴムが1970年代に台頭して多くの製品に使われるようになり約50年。他のゴムに比べて耐熱性や耐寒性などが優れているのが特徴で、近年は半永久的に使える環境に優しい素材として注目されている。このシリコーンゴムをいち早く採用し、幅広い業界でゴム製品を提供するのが錦城護謨だ。日本・関西を代表するモノづくりの町・大阪府八尾市の本社・工場の拠点で86年にわたり、世の中にないゴム製品の開発に挑んでいる。
シリコーンゴムの特徴を生かした製品は、全社売り上げの45%を占めている。炊飯器など家電部品、自動車の車載用部品、プリンターやひげそり、マッサージ機、医療機器の各部品、スイミングキャップなど幅広いゴム関連の重要部品を製造する。コロナ禍でも好調な業種がカバーし、業績を伸ばしている。
3事業のオンリーワン
年間約5,000種類のゴム製品を扱う同社の経営理念は「産み出す事で世の中の当たり前を変えていく」こと。「錦城らしさ、錦城だけのオリジナリティー、オンリーワンを探求していく」と太田泰造社長は語る。既成概念の脱却でゴム製品の無限の可能性を探求し、常に進化させ、社会に貢献し続ける会社を目指している。
錦城護謨は1936年に創業。「錦城」は大阪城の別称で、大阪城のように大阪を代表する企業を目指し、太田社長の祖父の創業者が命名した。工業用ゴム材料商社としてスタートし、現在はゴムの材料開発から金型設計、製造まで一貫体制を整えている。
ゴム製品の錦城らしさは、操業60年を超える八尾市の本社工場で培ってきた。材料や生産技術の開発、技術をモノづくりにしっかり落とし込み、品質保証や配送、納品の上流から下流まで自社でできる対応力が強みだ。
ゴム成型技術を活かした土木事業は、都市開発における軟弱地盤の改良を手がけ材料製造・設計・施工・管理まで手がけている。国内シェアは約70%。東京国際空港や関西国際空港、神戸空港など全国の埋立地や宅地、道路、河川堤防などに納入実績のある地盤改良技術が上野工場(三重県伊賀市)で生み出されている。ゴムと土木は一見、関連性がないように見えるが、ゴムの製造で培った成型技術をプラスチック製の土木材料の製造に活用している。
また、モノづくりを通じて社会貢献する視覚障がい者歩行誘導ソフトマット「歩導くんガイドウェイ」を商品化し、福祉事業にも進出。同製品は周囲をスロープにすることでスムーズに通行できるユニバーサルデザイン。一般的な誘導ブロックのような凹凸がない。代わりに白いつえなどで叩くと音や床の質感が違い、視覚障害者を誘導する。「誰もが共存できる空間をつくるのが(同製品)の役割である」(同)との想いから、健常者と障がい者の共存社会を目指す。2021年度末時点で導入件数は1,000カ所を超えている。同製品はゴム製で営業先は公共施設やゼネコンなど土木事業の顧客と共通する。3つの事業は分野が異なるが、他ができないモノづくりで世の中を笑顔にするという共通点があり、既存事業の延長や周辺領域に広げることで成功率の高い事業や用途拡大を図ることで事業を伸ばしている。
ゴムメーカーとして使い続けるシーンを提言
同社は創業から社会が要求するモノづくりを提供し続けている。昭和のモノが足りない大量生産・大量消費の時代に、ゴムを通じてモノを生み出し社会生活を豊かにし、世の中を笑顔にするモノづくりに力を注いできた。一方で現在の日本はモノが溢れている。また中小企業も脱炭素社会への貢献や持続可能な開発目標(SDGs)活動の取り組みが求められている。限りある資源を生かし、環境負荷を低減するSDGs活動の重要な課題である。少子高齢化で市場が縮小傾向のなか、太田社長は「先まで使い続けるシーンを提言するのが今後のメーカーのあるべき姿である」と強調する。
KINJO JAPANブランドで国内外に発信
この提言を体現するため挑むのが「KINJO JAPAN(キンジョー ジャパン)」ブランドの確立だ。2020年にシリコーングラス「KINJO JAPAN E1」(以下、E1)を発売し、BツーC市場に参入した。シリコーンゴム製のガラスと同等の透明感と重量感を合わせ持つ「E1」は、これまで2度のクラウドファンディングを行い、目標額を大幅に上回る資金調達ができるなど好調なスタートを見せている。同時に「E1」の発売には、社内には社員全員にモノづくりの喜びや楽しさ、自分達の仕事の社会的価値観を知ってもらうこと。社外ではBツーC向けで関わりができた顧客やデザイナーとのつながりから、BツーBの新たなビジネスの循環を図る狙いがある。BツーC向けは今後も割れないシリコーンゴムの特徴の食器や生活雑貨品などさまざまな用途拡大した製品を投入予定。ブランド展開を通じて良い商品をいつまでも長く使い続けてもらうため日本文化を国内外の情報発信を進めていく考えだ。
オープンファクトリーなどに取り組み、地域と一緒に成長
錦城護謨は八尾市で本社・工場を営み約60年。地元に根ざしモノづくりで地域貢献してきた同社の果たす役割はさらに大きくなっている。太田社長は「これからは地域の時代。地域と一緒に成長しなければ企業は成長しない」と自覚する。数年前から八尾市の子供にモノづくりや地域の魅力を発信する「みせるばやお」に代表理事として参画する。これをきっかけに2021年10月に同市と災害時の物資の供給と緊急一時避難施設使用に関する協定を結んだ。視覚障がい者向け歩行誘導マットなども同市の施設などに提供する。こうした地域活動を進めるうちに同地域の企業や近畿大学ほか地元の大学との関係を築き、コラボ製品なども増えている。
2020年から始まった大阪府八尾市や堺市、東大阪市、門真市など府内で広域展開するオープンファクトリーイベント「FactorISM(ファクトリズム)」では太田社長が実行委員長に就任、同社が立ち上げメンバーの1社となり“こうばはまちのエンターテインメント”を合言葉にモノづくりの現場を一般開放。モノづくりを体験、体感してもらうイベントを盛り上げている。参加社は年々増えている。太田社長は「地域との関わり、モノづくり伝承の点で大きな価値を感じている」と意義を唱え、工場見学した地域の子供が将来、同社に入社する夢を描く。「モノづくりを通じて世の中の当たり前を変えたい」という使命は地域社会貢献につながっている。
【関連情報】
▽所在地=大阪府八尾市跡部北の町1-4-25▽社長=太田泰造氏▽設立=1952年(昭27)▽売上高=61億円(2020年10月期)