日本進出で成功するカギは?
直接投資拡大へジェトロもサポート
日本経済の先行きを前向きに捉え、日本市場に魅力を感じて、進出を考える外国企業が増えている。実際、日本への直接投資も伸びており、我が国産業の発展に寄与している。それでも他国と比べれば、その水準はまだまだ低いのが実情だ。外国企業が日本でビジネスを展開する上での阻害要因も少なくない。外国企業が円滑に日本に進出するためには、政府のきめ細かいサポートが不可欠だ。
日本法人を設立
「日本市場でシェアが上がっていない。現状には満足していない」。オーストリアのクレーンメーカーであるパルフィンガー。本社トップからはこのようなメッセージが打ち出された。国内の同業メーカーを総代理店として20年ほど前から日本で展開している同社だが、さらなる市場開拓に向け自らも乗り出すことになった。アジアを統轄するシンガポールの拠点で日本市場などを担当していたグー・ペイウェイさんは、2015年から営業拠点となる日本法人を設立する準備をスタート。現在は、翌2016年3月に設立した日本パルフィンガー(横浜市港北区)の代表を務める。
パルフィンガーはクレーン業界で世界8位。トラック積載用でグラップルタイプの多関節クレーンに限れば「欧州市場で45%のシェア」(グー・ペイウェイさん)を誇る。日本ではクレーンの竿部分がまっすぐ伸び、その先端につないだワイヤーにフックがぶら下がる釣り竿のようなタイプが主流なため、パルフィンガーが得意とする多関節クレーンは原木やスクラップ、産業廃棄物などの積み込み用途などに限られる。それでも年間500台程度の市場はあるが、その大半はライバル社の製品が占め、パルフィンガーのシェアは1割程度にとどまっていたという。
さまざまな手続きをジェトロがサポート
2016年早々、グー・ペイウェイさんは単身、日本に乗り込んだ。しかし法人登記が済んでいないので事務所が借りられない。加えて「個人で部屋を借りるにも、外国人だと不動産業者からは門前払いを受けた」という。そして社員も雇いたいが、雇用する日本法人は登記の手続きに2~3カ月はかかる。まるで途方にくれてしまいそうな状況だが、ジェトロ横浜(横浜市中区)が当初からサポートしてくれたという。「ビザから法務、税務、労務、輸入手続きまで、いろいろジェトロに支援してもらった。その道の専門家からアドバイスを受けられたのが役に立った。輸入手続きでは実際に仕事で輸入に携わっていたジェトロ横浜のアドバイザーから丁寧なコンサルティングを受けられた。彼がいなければ、こんなにスムーズに立ち上げられなかった」とグー・ペイウェイさんは振り返る。
現在の事務所もジェトロから紹介されたが、そこが決まるまではジェトロ横浜にあるテンポラリーオフィスに居を構えた。50営業日まで無料で利用できて、2月から5月までここを拠点に活動した。人材募集でも業者の紹介などでサポートを受け、登記が終わる前にまず1人採用(当初の雇用主はシンガポール法人)。その後、パルフィンガー製品の日本展開を手掛けた経験のある辻佳也さん(営業部・サービス部統括部長)など3人が入社し、現在の5人体制となった。登記の手続きを始めてから9カ月後には、自社で輸入、出荷前の最終検査をするための倉庫も確保。2017年1月に日本パルフィンガーとしては初めてとなる製品出荷にこぎ着けた。
人材確保がカギ
パルフィンガーの場合、グー・ペイウェイさんと辻さんは以前から仕事を通じた知り合いだったように、20年にわたって日本市場で販売していたことが、事業の立ち上げには有利に働いた。ただ、同社をサポートしたジェトロ対日投資部外資系企業支援課プロジェクトマネージャーのクー・キーワイさんによると「日本に進出する企業にとって人材の確保が一番難しい。たとえ海外で有名な企業でも、日本で名が知られていないと日本人は一般に躊躇する。そのため、なかなか採用できない」と指摘する。またオンラインで簡単に法人登記ができて、人材採用にかかるコスト(人材紹介会社への手数料など)も安いシンガポールなどと比べると、外国企業にとって日本への進出へのハードルはまだまだ下げなければならないだろう。
日本パルフィンガーは昨年11月、香川県で開催された展示会で新モデルのお披露目をした。欧州ではすでに発売していたが、アジアでは初めて。「最後は我々の社員が日本で完成検査を行って出荷する。日本法人としての品質へのこだわりと、欧州企業の良さを組み合わせたスタイルを出していきたい」とグー・ペイウェイさんは意気込む。同社のシェアも最近では30%近くまで伸びてきたという。