外国人の採用に動き出す日本企業
総合職としての活躍も期待
これからの時代、日本企業にとって優秀な人材は国籍にかかわらず必要という点で、さほど異論はないだろう。ただ多くの企業がこれまで採用の前提としていたのは、やはり日本人。どうすれば高度外国人材を採用し、そして働き続けてもらえるのか。いち早く外国人の採用を進める企業の取り組みを見た。
日本人と変わりない
エンジニアを中心に外国人を採用するHDE(東京都渋谷区)。2013年から外国人材の採用に乗り出した同社では、約130人の社員のうち現在23人が外国人。当初こそ「1年で全員辞めてしまうのでは」と副社長の宮本和明さんは懸念したが、実際に辞めたのは2人だけ。日本人社員と何ら違いはなかった。
同社では6~8週間にわたるインターンシッププログラムを実施しており、ここで縁があれば卒業後に採用に至るケースもある。同プログラムでは、まずウェブで課題を提示して、その結果を受けてSkypeで面接する。日本語能力は問わない。インターンシップや採用のための渡航費や滞在費などを考えても、1人当たりの採用コストは100万円以内。国内で採用イベントに参加する費用などと比べても、むしろコストは抑えられる。
社内公用語を英語に
もちろん外国人社員の受け入れでは試行錯誤を重ねている。就業規則を英語化するところから始まり、健康診断や銀行口座の開設などのサポートも必要だ。「年末調整の説明が一番大変」と人財広報室長の髙橋実さんは笑う。そして同社では2016年10月に英語の社内公用語化に踏み切る。日本人同士のミーティングは日本語でも良いが、外国人が加わった時は英語とした。社内のドキュメントも英語化。日本人社員の英語学習も支援し、フィリピンのセブ島への1カ月間の英語研修も実施。これまでに15人が派遣された。ただ日本人の英語学習よりも、外国人社員が日本語をマスターする方がよほど速いという。
宮本さんは「外国人の受け入れはまだ試行錯誤中。日本人でも入社から3年たてばいろいろ考える時期。外国人採用もちょうど3~4年たち、これから未知の領域に入る。そんな試行錯誤をする仲間の企業がもっと増えてもらえれば、お互いノウハウが共有できるんですけど」と話す。自社の経験やノウハウは社外にもオープンにしているが、「なかなか外国人採用で追随するところが現れてくれない」(髙橋さん)のが、同社の悩みだ。
留学生採用の基盤作り
眼鏡のSPA(製造小売業)として、日本発のファストファッションブランドを目指すオンデーズ(東京都品川区)は、5年ほど前から外国人留学生の採用をスタート。しかし採用を本格化したのは2014年に陳秋霞さんが中途入社で人事部に加わってからだ。自身も留学生だった陳さんは、自らの経験も生かして留学生採用の基盤作りを進めた。
留学生にとって日本での就職活動のネックとなるのは、採用プロセスの不透明さ。何度も面接があり、内定が出るまで1カ月間、2カ月間と時間ばかりがかかるのは、外国人には理解できないという。そこで同社では書類選考の合格から最終面接の結果を出すまでの期間を2週間で終えるようにした。プロセスも書類選考、1次面接、最終面接とシンプル化。これは日本人、外国人を問わず適用している。
外国人雇用サービスセンターを活用
加えて国の機関である外国人雇用サービスセンターにアプローチした。陳さんによると同センターを失業者に対する就職案内と見る向きが日本企業側では根強いという。しかし留学生側からは国の機関であるという信頼感から同センターを頼ることが多く、採用情報を知る有力なルートになっている。企業にとっても、日本で就職を考えている留学生の情報を得ることができる。
同社の外国人正社員は現在56人。2018年4月は20人弱の入社を予定している。最近では新卒採用の4割程度を外国人が占める。国籍は中国が一番多いが、韓国や台湾、ネパール、ベトナム、チュニジア、フランス、スイス、イタリア、タイとさまざま。入社試験は国籍不問で、選考条件は日本人と同じ。入社後の待遇も同じだ。年に2回の人事査定で能力に見合ったポジションを得るチャンスがあるため、入社1年でも差が付く。そんな実力主義が、外国人の採用にはプラスに働いているようだ。
日本企業で外国人留学生を積極的に採用しているところはまだまだ少ない。ただ今後は日本人、外国人にかかわらず優秀な人材を獲得しようという流れは加速するだろう。そうすると人材獲得競争は激しくならざるを得ない。眼鏡のファストファッションとして世界トップを目指す同社では、今後も優秀な学生の獲得は欠かせない。そのため「いろいろな採用ルートを考えていきたい」と陳さんは話す。
多様な人材獲得が狙い
「将来の幹部候補生という総合職として採用していることをきっちり説明する」と、ファミリーマートの管理本部総務人事部人財採用グループマネジャーの佐藤義則さんは説明する。同社は5年ほど前から外国人留学生の採用を始めたが、海外事業の拡大を目的としたものではないという。あくまで多様な人材を獲得するためで、選考プロセスも入社後の扱いも日本人と同じだ。「決して海外人材という専門職ではない」(佐藤さん)
同社の外国人社員は現在105人。さらに2018年4月に52人が加わる。4月入社は全体で約300人だから、かなりの割合だろう。この52人のうち13人は留学生ではなく、海外の大学から直接採用した。「昨年は台湾、香港、タイ、シンガポール、中国で採用活動を行った」(同)。海外のトップ校から優秀な学生を得られることに加え、あえて日本で留学経験のない人材を採用することで、人材の多様化をさらに進める。
日本語で営業
外国人を採用する際は日本語能力も条件とする。日本語能力試験の最上位「N1」にはこだわらないが、面接では日本語による営業ができるかどうかを判断する。ただアジアの学生だと日本語学科だけでなく、第2外国語で日本語を履修した学生でも、かなり話す能力があるという。これらの学生が、現地で日本語能力を生かした仕事を探そうとすると通訳など専門職に限られてしまいがち。そのため、営業や企画などビジネス全般に携われる日本企業の「総合職」に、むしろ魅力を感じてくれる学生が多いという。「フランチャイズビジネスに興味を持っている学生も多い」と佐藤さんは話す。
現在、外国人社員はスーパーバイザーのほか、海外事業や人事、経営企画、システム、経理財務、新規事業などさまざまな部門で働いている。産休を取得している社員もいる。まだ入社から間もない社員ばかりなため管理職はない。しかしあと5年、10年たつと課長クラスに昇進する外国人社員も現れてきそうだ。