地域で輝く企業

「人にフォーカスを当てる」。医療機器事業や社員が急成長する山科精器

山科精器が注力する医療機器事業の製品群

 1939年、山科精器は京都で創業した。当時はマイクロメーターの製造を主力としていたが、現在では工作機械や熱交換器、注油器を中心に事業を展開する。船舶や自動車向けに産業機器を多角展開し、広く社会の発展に貢献してきた。

重点3分野に注力

 FA(工場自動化)・環境・医療を重点3分野に掲げる。FA関連では、特に食品分野での自動化ニーズを的確に捉える。バターやチーズ、チョコレートなどのカットは、いまだに人手による作業が多いという。また、最近増えているのが段ボール関連だ。段ボールの組み立て、中に品物を詰める、ふたを閉めるといった作業の機械化ニーズに対応している。

工作機械や熱交換器が売り上げの7割を占める主力事業

医療機器事業を次の柱に

 一方で「自動車や造船は日本の基幹産業だが、今後の拡大が見込めない」(大日(おおくさ)陽一郎社長)という危機感もあった。山科精器が医療機器関連の開発を始めたのは2004年。滋賀県では医工連携が活発化してきたこともあり、モノづくりで培った技術を生かす新たな事業として医療分野に参入した。

 2009年にメディカル事業部を立ち上げ、大阪大学や滋賀医科大学などとの産学連携で共同開発を重ねた。2013年には同社初の医療機器として、外科用吸引管「ヤセック吸引嘴管(しかん)」と、内視鏡用の洗浄吸引カテーテル「エンドシャワー」の発売にこぎ着けた。

ヒット製品の吸引凝固嘴管「サクションボール・コアギュレーター」

 さまざまな新製品を市場投入する中、2015年に発売した吸引凝固嘴管「サクションボール・コアギュレーター」は、2020年までの累計で6万本以上を売り上げるヒット製品となった。吸引しながら止血する処置具で、開腹手術などで使う。先端が止血に向いた独自の球状構造が特徴だ。

海外展開で攻勢に出る

 着実に成長する同社の医療機器事業。次に照準を定めるのは海外展開だ。現状は、タイやシンガポール、台湾などのアジア圏での販売体制を整え、サンプル提供を始めている。このほど、中小企業の海外展開を支援する補助金「JAPANブランド育成支援等事業」に採択され、支援パートナー企業とともに次なる市場の欧州に向けて準備を進める。

 まずは欧州の安全規格「CEマーク」の取得が必要となる。欧州販売の第一弾を予定するサクションボール・コアギュレーターの安全性などを試験で確認し、データ収集する。並行して、支援パートナー企業の海外拠点を活用した市場調査や現地の医療機器販売会社を選定していく。

 欧州でのパートナー企業選定やCEマークの申請・取得、販売準備を経て、2023年後半ごろの販売開始を目指す。大日社長は「商品には自信がある。あとは手続きを進めるだけ」と意気込む。

社内改革推進

 医療機器事業に注力する一方で、社内改革も推し進める。大日社長の「人にフォーカスを当てる」という思いに端を発する。2019年に仕組みを変え、トライアルなどを経て今年から本格的に新評価制度をスタートさせた。会社経営方針の達成、所属する部や課の目標を達成するために個人ではどう行動するかという年間目標を設定し、年4回の面談でその進捗(しんちょく)を確認する。総務課の古野智子課長は「目標を達成したかどうかももちろん見るが、それよりも目標に向かって個人はどうアクションしたかに焦点を当てている」と説明する。従来は年2回、簡単な面談を行う程度だった。

 新評価制度は賃金制度と連動させ、能力給に反映する。各制度の変更に伴って、教育訓練システムを導入した。外部セミナーを活用し、各等級によって受講するテーマを分けた。それぞれの等級の社員が同じ内容をインプットすることで、社会人基礎力の底上げを図る。個人の成長を期待するだけでなく、会社のサポート体制を整備した。

「中核になるのは人。社員の力が会社の競争力のすべてだ」と大日社長

インナーブランディング強化

 こういった改革を進めていく中で、社員の考え方や社内の仕組みを変革させる必要が出てきた。そこで、社内外に向けて“山科精器”を発信していく「ブランディング委員会」や、働き方などを変えていく「カエル委員会」を次々発足させた。

 「会社の価値を上げていこうという中で『山科精器って何?』と、イメージが湧かなかった」。保坂誠取締役は、これまで事業部ごとに製品カタログを作るなど、企業イメージに統一感がなかったことに気がついたという。2018年に立ち上げたブランディング委員会では、会社案内や紹介ビデオの制作、作業服の刷新などを行ってきた。ゆくゆくは企業イメージを新製品に落とし込んでいくことを目指す。

 若手社員を中心に立ち上げた「カエル委員会」では、ペーパーレス化やテレワーク環境の構築など、五つのテーマを設定して職場づくりを進める。社員食堂の改修を2022年3月までに終え、順次オフィスのリニューアルにも取りかかる。

SDGsの啓発活動

 国連の持続可能な開発目標(SDGs)について、社員への啓発活動も行う。滋賀県立大学の上田洋平教授を招いてSDGsに関する講義をしてもらい、全社員が受講した。インターンシップ(就業体験)などで学生と話す機会が増える中、学生の方がSDGsに詳しいこともあったとか。社員からは「事前にインプットしておきたい」という声も出ていたという。

 このほか、県内の小学生や中学生がSDGsを学ぶための教材「滋賀県版ふるさとSDGsボードゲーム」のクラウドファンディング(CF)に協賛したり、地元小学生が地域の企業を知るための教材に掲載されるなど、地域貢献にも積極的に取り組む。

 

【企業情報】

▽所在地=滋賀県栗東市東坂525▽社長=大日陽一郎(おおくさ・よういちろう)氏▽設立=1939年(昭和14年)7月▽売上高=27億4000万円(2021年3月期)