次世代電力システムを支える新技術
IoT、AI、ブロックチェーンなどの開発進む
2020年を境に電力をとりまく環境が大きく変わりそうだ。発送電が分離され、新しい電力取引の市場が立ち上がる。パリ協定もスタートし、再生可能エネルギーへの期待が高まる。さらにIoT、AI、ブロックチェーンといった新技術も電力システムを変貌させる可能性がある。
分散型エネルギーをつなげ電気を上手に使う社会
新しいエネルギー社会の到来を予感させる実証事業が始まっている。その一つがバーチャル・パワー・プラント(VPP:仮想発電所)だ。
一般に“発電所”と言えば、火力発電所や原子力発電所のような大規模な施設を思い浮かべるが、VPPは、家庭、ビル、工場などの需要家に点在する小さな発電設備などのエネルギーリソース機を、IoT(モノのインターネット)技術で束ねて、あたかも一つの発電所のように電力を供給する。VPPが利用するエネルギーリソースには、屋根の上の太陽光発電パネル、家庭用燃料電池(エネファーム)などのコジェネレーションシステム、蓄電池、電気自動車(EV)、ヒートポンプ式電気給湯機(エコキュート)などが挙げられる。また、それぞれの需要家が節電することで生み出す「ネガワット」もVPPを構成する重要な要素だ。
VPPは、これらの分散型エネルギーリソースを活用して、電力の需給バランスを調整する機能(調整力等)を提供する。電力が足りなくなりそうな時は、コジェネレーションシステムに発電してもらったり、蓄電池やEVに放電してもらったりして不足を補うことができる。家庭用蓄電池1台1台の出力は小さいが、仮に10万台が一斉に放電すると火力発電所1基に相当する調整力を生み出すことができる。VPPの取組が広まれば、電力会社は火力発電所を緊急稼働させずとも需給調整ができるようになる。そうすれば、燃料費の抑制や、予備力・調整力として確保している火力発電所を持たなくても済み、電力システム全体からみて、発電コストをむ削減するといったことも期待できる。
実証事業を通じて、VPPを構築中
経済産業省は2016年度からVPP構築実証事業を展開している。2017年度は、6社のアグリゲーターが中心となり事業コンソーシアムを形成し実証事業に参画している。各コンソーシアムでは、決められた時間に必要な電力量を制御し、調整力として提供できるか等を検証している。
例えば、ソフトバンクグループのSBエナジーは、2016年度から九州エリアで蓄電池等を活用したVPP構築事業に取り組んでいる。電力不足になりそうだと、電力会社から依頼を受けたSBエナジーがリソースアグリゲーター(この実証では蓄電池等の制御役)に電力供給を依頼する。リソースアグリゲーターは、例えば、契約した需要家が所有する蓄電池に放電を指示する。蓄電池にはIoT端末を装着し、インターネットを通じて、遠隔制御により建物内に放電し、電力会社が発電する量を減らすことができる。
アグリゲーターは“司令塔”となり、リソースアグリゲーターを通じて充電残量等を常に監視し、需給調整に利用可能なリソースの容量を把握し、制御できるように準備する。仮に電力会社から「1000キロワットの節電を協力してほしい」と依頼があると、それぞれの蓄電池の余力を見極めて放電量を配分する。蓄電池1台1台の放電量がバラバラでも、合計すると電力会社からの依頼量「1000キロワット」と一致するように制御する。
VPPは本来の用途に使われている蓄電池等の分散型エネルギーリソースを一時的に需給調整に利用する、新しい経済形態であるシェアリングエコノミーの一つといえる。電力システムに不可欠な需給調整をこのような形で支えることにより、全体としての効率化や低コスト化につながると期待される。また、2017年度からは、ネガワットにより需給調整に協力し、その対価をもらうビジネスは本格的に開始している。今後も需要家が自身の持つエネルギーリソースを活用して需給調整等に活用する取り組みの更なる拡大が期待されている。
再エネ導入拡大も支えるVPP
再生可能エネルギーの導入拡大を支えるのもVPPだ。太陽光や風力発電は天候によって出力が目まぐるしく変動するため、使う量以上に電気をつくってしまう恐れがある。需要を上回る電気が電力系統に送り込まれると、送配電設備に負担となり、故障や停電を招く。太陽光や風力発電が電気をつくりすぎた場合に、VPPにより家庭の蓄電池やEVに充電を指示するなどして需要を創りだすことができれば、電力系統に余分な電気が流れない。太陽光や風力も稼働を止めたり、出力を落としたりする必要がなくなり、再生可能エネルギーを無駄なく活用できる。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が米ハワイ州で展開した実証事業が、再生可能エネルギーを支えるVPPの先進的事例だ。NEDOから事業を委託された日立製作所、みずほ銀行、サイバーディフェンス研究所が2011年から2016年度までマウイ島で取り組んだ。
日立は、EVの充電器を遠隔制御できるICTシステムを整備。島内の再生可能エネルギーの発電が増えるとEVに充電を指示し、使い切れない余剰電力をEVの蓄電池にためる。逆に電気が足りなそうだと、EVが放電して不足分を補う技術を確立した。EVをエネルギーリソースとして活用する取り組みが普及することへの期待が高まっています。
ブロックチェーンが需要家取引の基盤
仮想通貨で注目のブロックチェーンも電力分野に活用されそうだ。エナリスと会津ラボ(福島県会津若松市)のベンチャー2社は、、ブロックチェーンを活用した電力取引の実証を計画している。福島県の「再生可能エネルギー関連技術実証研究支援事業」に採択された。会津ラボの通信機能付コンセント「スマートプラグ」が家電の電力使用量を計測し、国産ブロックチェーン「いろは」に書き込む。
第一弾とし、2月から福島県浪江町で実証を始める。高齢者が暮らす世帯の家電の電力使用量をブロックチェーンに記録し、データを遠隔地の家族や知人に知らせる「高齢者見守りサービス」を始める。333世帯が参加する大がかりな実証となる。データを受け取った家族や知人は、高齢者が普段通りに生活しているか確認できる。
需要家同士の取引見据え
2社はこの実証の先に、需要家同士が電力を取引できる社会を見すえている。太陽光発電、蓄電池、EVが普及すると、需要家が電気の売る側にもなる「プロシューマー」が出現すると予想される。すると、需要家同士の電力取引にニーズが生まれる。
現状は月1回届く請求書でしか電力の利用状況は分からない。ブロックチェーンなら「いつ、だれに、どれだけ売った」が瞬時に分かり、需要家同士の取引の基盤となる。今は需要家同士が直接に電力を取引することはできないが、電力を取り巻く環境は大きく変化する可能性がある。その時に備え、ベンチャー2社が最新技術に磨きをかけている。