地域で輝く企業

創薬から健康食品まで、挑戦し続ける原薬メーカー

千葉県の白鳥製薬

「2028年に技術力で日本一の原薬メーカーを目指す」と白鳥社長。

 白鳥製薬は1916年に日本で初めてカフェインの抽出に成功したことからスタートした原薬メーカーだ。創業者である白鳥與惣左衛門氏の「人の役に立つ」ために「挑戦」する精神は、今も創薬や健康食品事業の拡大など同社の成長の原動力となっている。2028年には技術力で日本一の原薬メーカーを目指す。

 医薬品の製造に必要なカフェインをドイツから輸入していたが、第1次世界大戦の開戦でストップ。日本の医薬品業界は国内での製造に迫られる。その中で茶葉に着目したのが、白鳥與惣左衛門氏で、試行錯誤の末、抽出にこぎ着ける。

 この原点であるカフェインの売上高比率は数%にこそなったものの、その抽出で手に入れた精神は6代目の白鳥悟嗣社長にも受け継がれている。

創薬プロセスの一端を担う

 白鳥社長の人の役に立つための挑戦は創薬だ。創薬には膨大な開発コストがかかるが、米国で創薬にかかわる組織の人数を調べると、中央値は100人以下で、10人規模も少なくない。従業員数が180人の同社ができないはずはない。強みの原薬合成技術を生かし「創薬プロセスの一端を担っていく」(白鳥社長)方針だ。

 これによりアンメット・メディカル・ニーズ(未充足の医療ニーズ)に対応することで人の役に立つ。白鳥社長は「有効な医薬品がない疾患は数々ある」と訴える。アルツハイマー病のほか、希少疾患がターゲットだ。特に希少疾患は大手が参入したがらない分野で、白鳥社長は「我々の企業規模だからこそできる」と見る。

 このほど武田薬品工業からスピンアウトした創薬ベンチャー企業のジェクスヴァル(神奈川県藤沢市)が実施した第三者割当増資を他社とともに引き受けた。ジェクスヴァルは開発が中止された化合物の新たな効能を見つけ出し、希少疾患や難治性疾患への転用を進めている。

 同社と白鳥製薬は以前から原薬の供給で取引関係にある。出資の狙いは同社の上場に伴うキャピタルゲインだが、希少疾患や難治性疾患に対する創薬で両社の戦略が一致することから、白鳥製薬は原薬合成技術を活用して協業する方針だ。

 ジェクスヴァル以外にも白鳥製薬が取得している製法特許に基づき、米国で難病薬の治験がフェーズ3の段階まで進んでいるほか、大学や研究機関とも共同研究を進めている。

 ただ「創薬は夢があっておもしろいが、(研究テーマ)全ての花を咲かせるのは難しい」(白鳥社長)のが現実だ。そのため原薬など通常業務とのバランスが必要となる。

勤務時間の10%を新しい業務に挑戦する「10%ルール」を設ける

 そこで白鳥社長は勤務時間の10%を新しい業務に挑戦する「10%ルール」を呼び掛ける。これは「20%ルール」で、Gメールなど革新的なサービスを生み出してきたグーグルに習ったものだ。週休二日で換算すると「半日は創薬に打ち込める」(白鳥社長)ことになる。

エビデンスに基く健康食品を

 健康食品事業の拡大にも挑戦する。背景には少子高齢化が進み、増加する医療費が政府の財政と国民の負担になっていることがある。その中で欠かせないのが、健康食品などで未然に病気を防ぐことだ。 例えば、骨から分泌されるホルモン「オステオカルシン」は、さまざまな臓器に刺激を与える効果が確認されている。オステオカルシンの分泌を促すといわれるオリーブの葉から抽出したエキスを原料とすることで、全身の代謝を活性化にむすびつける。

このほど発売した健康食品「クオリーブ」


 現在開発を進めているのが、花粉などによるアレルギー症状緩和と、腸漏れ(腸の粘膜に開いた穴から毒素や細菌、未消化の食べ物などが血液中に漏れ出る現象)抑制に機能するという健康食品だ。

 ウズラの卵に含まれるたんぱく質にはアレルギー症状を緩和する働きがあるといわれる。腸漏れについてはニュージーランドのAGリサーチと共同開発を進める植物乳酸菌「AGR1526」により、腸管のバリアー機能を高め、腸管出血性大腸菌の接着を予防的に抑制する。原薬メーカーである白鳥製薬がエビデンスに基づいた健康食品を開発することにより、白鳥社長は「財政と国民両方の役に立ちたい」と強調する。

地元で採用、地域とともに汗をかく

 事業を通した雇用の創出でも人の役に立つ。創業の地である千葉県習志野市や千葉市などには千葉工業高等学校や千葉大学、千葉工業大学、東邦大学などがあり「有為な人材を採用している」(白鳥社長)。また地元の千葉ロッテマリーンズやジェフユナイテッド市原・千葉などの有名スポーツチーム以外にも、習志野シティFCやアルティーリ千葉など「これからのチーム」(同)の支援にも力を入れる。

 祭りなど地域イベントへの参加にも積極的で、白鳥社長自らが焼きそばやフランクフルトを焼き、それらを販売もする。さらに5代目の白鳥豊会長とみこしを担ぐこともあり、人も提供し、地域とともに汗をかくのが、同社流の地域貢献だ。

祭りなど地域のイベントに積極的に参加する(右から2人目が白鳥社長、3人目が白鳥会長)

 挑戦を加速するため、全面的な電子決済への移行やグループウエアの導入、共有サーバの保管方法のルール化などデジタル変革(DX)を推進する。その一方で、白鳥社長と5代目の白鳥豊会長が行ったのが、創業精神と経営理念の整理だ。

 そのポイントの一つが「慈愛の精神」だ。暖かさと優しさがある一方で厳しさもある。例えば「相手を尊重しているからこそ、厳しいことも言うべきことは言う」(同)ものだ。この精神で業務とともに、人生に向かい合ってほしいとの思いを表現したものだ。

 そして慈愛の精神があれば形だけはなく、本当の意味で人の役に立つために挑戦でき、グループビジョン「チェンジ・ザ・ワールド」、つまり全てのステークホルダー(利害関係者)の世界観を変えられる。
 

【企業情報】
▽所在地=千葉市美浜区中瀬2の6の1▽社長=白鳥悟嗣氏▽設立=1948年▽売上高=62億円(2021年8月期)