統計は語る

企業の「生産マインド」 8月調査では強気姿勢に陰りも

 経済産業省では、毎月初旬に主要製品の生産計画を調べている。調査対象製品を製造する企業のうち、主要企業を対象とし、その月と翌月の生産計画を調査している。今回は、8月初旬に調査した8月と9月の生産計画の状況と、8月初旬段階での企業のマインド、つまり生産計画や見込みが強気だったのか、弱気だったのかを紹介する。

8月の生産計画とその補正値

 8月の生産計画は、季節調整済指数で前月比3.4%の上昇となる見込み。この計画どおりに生産されれば、8月の鉱工業生産の実績は、2か月ぶりの前月比上昇となる。

 また、9月の生産計画は、この8月の計画から1.0%の上昇が見込まれている。

図表01

 生産計画は、生産実績よりも上振れする傾向がある。そこで、8月の生産計画について、生産実績との間で生じるであろう「ずれ」を統計的に計算、補正することで、8月の生産実績の見通しを推計した。

 その結果、8月の生産実績の見通しは、前月比0.1%程度の上昇が見込まれる。9月も前月比1.0%の上昇が見込まれるものの、8月、9月で、7月の低下幅(前月比マイナス1.5%)を取り戻すまでには至らず、5月以降の動きも踏まえると、上下動を繰り返しながら、低下傾向で推移する懸念もある。

図表02

生産計画の伸びを当てはめた鉱工業生産のグラフ

 生産計画の伸びを9月までの鉱工業生産指数に当てはめてグラフ化すると下のようになる。

 7月の鉱工業生産指数実績(確報)は98.1であるため、調査結果の伸び率3.4%をそのまま当てはめれば、8月の指数水準は101.4に上昇する見込みだ。

 ただし、生産計画と生産実績の間には傾向的なバイアスがあり、このバイアスを過去の傾向に基づき補正すると、8月の伸び率は最頻値では0.1%程度の上昇となる。この場合、8月の指数水準は98.2となる。

 なお、9月の生産計画は、前月比1.0%の上昇の見込みで、仮に8月の生産が計画どおり(前月比3.4%の上昇)であったとすると、9月の指数水準は102.4となり、コロナ前(2020年1月)の水準99.1を超えることになる。

図表03

生産計画の強気と弱気

 生産計画を前年同月の実績と比較すると、この生産計画がどの程度、強気なのか弱気なのかを判断する一つの目安となる。ただし、前年の実績が例年よりも大幅に増加又は減少している場合には、その点を考慮して判断する必要がある。

 今回、8月の生産計画を原指数で見ると、前年同月実績比17.6%の上昇となり、9か月連続で前年同月実績を上回った。

 ただし、前年2020年の8月生産実績は、感染症拡大の影響により、前年同月比でマイナス14.6%と大きく低下していることから、生産が大幅に減少した2020年と今回の数値を単純に比較して判断するには注意が必要だ。

 感染症拡大の影響を受けていない前々年2019年8月の生産実績と比較すると、今回8月の生産計画は0.4%高くなっており、例年と同程度の水準であることが分かる。

 企業の生産計画は、感染症拡大による影響からは回復しつつあるが、例年の水準と比べると、強気というほどではないと考えられる。

図表04

 次に、1か月前時点で調べた生産計画が、生産開始直前に調べた生産計画と比べ、どの程度変動したかを示す数値が予測修正率となる。

 8月の予測修正率はマイナス1.2%と、5か月連続の下方修正となっている。2020年7月以降、生産計画は上方修正される傾向が続いていたが、2021年に入ってからは、下方修正される月が多くなっている。

 企業の生産マインドは、これまで強気の傾向で推移してきたが、予測修正率の状況からは、強気の傾向に陰りがみられると考えられる。

図表05

 生産計画を上方修正した企業数の割合から、下方修正した企業数の割合を引いた数値を「アニマルスピリッツ指標」と呼んでいる。この指標は、企業の生産計画の強気、弱気の度合いを推し量るために活用している。

 この指標の推移とこれまでの景気循環を重ねると、月々の上下動をならしたトレンドが、概ねマイナス5を下回ると景気後退局面入りの可能性が高いという傾向がみられる。

 生産計画の8月調査結果では、アニマルスピリッツ指標の単月の数値はマイナス6.7、月々の上下動をならしたトレンドは1.0となっている。単月の数値は、マイナス5を下回り、トレンドも低下傾向に入っていることから、アニマルスピリッツ指標の動きからも強気の傾向に陰りがみられる。

図表06

 8月調査では、強気の割合が1.7ポイント低下、弱気の割合が3.6ポイント上昇となったことから、アニマルスピリッツ指標は前月から大きく低下した。

 昨年6月以降、国内外での経済活動の回復が進んできたことにより、企業の生産マインドの改善も進み、企業の生産マインドは強気の傾向で推移してきたが、アニマルスピリッツは2か月連続でマイナスの数値となり、ここでも強気の傾向に陰りがみられる。

図表07

 8月の調査結果では、アニマルスピリッツ指標が2か月連続でマイナスの数値となり、予測修正率も5か月連続の下方修正になるなど、これまでの強気傾向に陰りがみられる。

 感染症拡大による下振れリスクの高まりや、半導体不足による影響などサプライチェーンの状況が企業のマインドに影響を及ぼしている可能性もあり、9月以降の調査でも注意深くみていきたい。

 

【関連情報】

結果概要のページ

予測指数解説集

マンガ「ビジネス環境分析にも使える!鉱工業指数(IIP)」