原発事故を二度と起こさないために
新規制基準で「安全神話」から脱却
東京電力の福島第一原発事故は、原子力の関係者がいわゆる「過酷事故は絶対に起きない」との「安全神話」に陥っていたために、過酷事故への対応姿勢が欠如していたことを露呈した。このような事故を二度と起こさないためにも、原子力発電に「ゼロリスク」はないと強く認識し、関係者がそれぞれの立場で不断の安全性向上に努めることが重要である。
「深層防護」を基本に
2013年、原子力発電所の安全性に関する新たな基準(新規制基準)が策定された。新規制基準を策定したのは、福島第一原発の事故を受けて設立された、独立性の高い規制機関「原子力規制委員会」である。新設だけでなく、既設の原発にも遡って基準を満たすことが求められている。シビアアクシデント(重大事故)を防ぐための基準を従来よりも厳しくしただけでなく、シビアアクシデントが起こってしまった場合にも、その進展を食い止める対策を法令上の規制対象として新たに明記した。地震や津波で安全機能を喪失し、その後の炉心損傷や水素爆発といったシビアアクシデントを防ぐことができなかった、福島第一原発の事故の教訓を踏まえたものだ。何重にもわたり安全対策を施す「深層防護」を基本としている。
まず従来の基準からは耐震・耐津波性能が厳しくされた。活断層の上に安全上重要な施設を設置しないように定めた。併せて活断層の認定基準も、約12万~13万年以降の活動が否定できないものと明示し、基準地震動の策定を精密化した。火山や竜巻、森林火災なども想定した防護対策を要求している。
シビアアクシデント対策を新設
新設されたシビアアクシデント対策では、安全機能が喪失したとしても炉心損傷を防ぐ対策、炉心損傷が起きても格納容器を破損させない対策、格納容器が破損しても敷地外への放射性物質の拡散を抑制するための対策を要求している。具体的には、溶融炉心を冷却するための注水設備や、可搬型注水設備、大容量泡放水砲システムの配備などだ。また、意図的な航空機衝突などテロ対策として、発電所を遠隔操作できる設備も求めている。
これらの要求を設けた新規制基準の下で安全審査が行われ、2014年9月の九州電力川内原子力発電所1、2号機(鹿児島県)を始めとして、これまでに14基の原発が安全審査に合格している。
九州電力川内原子力発電所1、2号機の場合
それでは実際に新規制基準に合格した発電所ではどのような対策が施されたのだろうか。川内原子力発電所1、2号機では、琉球海溝におけるプレート間地震(マグニチュード9.1)による津波を想定。この場合、発電所での津波は海抜約5メートルであるが、潮位のばらつきなども考慮し同約6メートルと想定した。同発電所の主要設備は同約13メートルの敷地にあるため、十分に余裕がある。その上で、同約5メートルの海水ポンプエリアに同約15メートルの防護壁を設置。引き波時にも海水を確保できるように貯留堰も設けた。
地震の揺れでは岩盤上で最大620ガルを想定して、配管の支持部を補強するなど耐震補強工事を実施。竜巻では最大風速100メートル/秒という、日本で過去に発生した最大の竜巻を超える水準に耐えられる設計とした。
シビアアクシデント対策では大容量空冷式発電機や常設電動注入ポンプを設置するとともに、可搬設備として移動式大容量ポンプ車を4台、可搬型ディーゼル注入ポンプ2台、可搬型電動低圧注入ポンプ4台、放水砲2台、中容量発電機車2台、高圧発電機車4台を配置するなど、設備の多重化、分散配置を徹底している。さらに運営面でも常時52人を確保できる宿直体制を整えている。
最大20年の運転期間延長が可能
2013年に施行された改正原子炉等規制法では運転期間を40年間と定めたが、新基準に基づいて安全性が確認されれば最大20年の延長が可能となる。この第1号は関西電力の高浜発電所1、2号機(福井県)で、2016年に認可された。ここでは部品レベルまで劣化状況をチェックしている。主要部品はすでに更新されているが、格納容器の上部にドーム状の鉄筋コンクリート造りの遮蔽を新設するとともに、外部遮蔽壁の増厚や補強にも着手。現在はこれら安全対策工事を進めているところだ。