政策特集航空機のカーボンニュートラル~アフターコロナを見据えた”空”の変革への挑戦 vol.5

航空機のカーボンニュートラル実現へ 海外政府・企業から日本企業への高まる期待

 航空機のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロのこと:以下CNと記載)実現に向けて、日本の企業と政府は、環境負荷を低減するために急ピッチな動きを見せている。この連載ではこれまで、脱炭素化に向けた日本の企業や政府の取組について特集してきた。最終回となる今回は、海外の大手航空機関連メーカーや政府が、脱炭素化の中で日本企業をどう捉え、どのような戦略を描いていこうとしているのかを浮き彫りにする。

次世代航空機の開発へ、日本企業と連携を深めるボーイング

 

ボーイングジャパンのウィル・シェイファー社長

 米国の航空機OEM(オリジナル・イクイップメント・マニュファクチャー、実際に航空機を作るメーカー)であるボーイング社と日本の産業界とのパートナーシップの歴史は60年以上にわたる。日本企業は、ボーイングの機体に欠かせない部品や材料の提供をしており、例えば、ボーイング787の機体では、日本企業が35%参画し、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)と呼ばれる複合材を用いた部品の供給等を行っている。

 2019年、経済産業省は、次世代航空機の開発に向けて更にボーイングとの連携を強化するため、電動化技術、複合材製造技術、自動化技術等について協力していくことで合意した。

 同社は昨年、CNを含めたESG課題に対応するため、新たに幹部を任命するなど、取り組みを加速している。技術開発面では、電動化や水素等の新技術の航空機への適用可能性の検討を続けており、例えば、過去にIHI(旧・石川島播磨重工業)とともに、水素燃料電池の飛行実験を成功させている。

 こうした中で、ボーイングジャパンのウィル・シェイファー社長は、「日本は大企業、中小企業問わず、電動化や水素の活用、製造自動化、CFRP等、私たちを助けてくれる革新的な技術を持っている。現在、航空宇宙産業は困難な状況に置かれているが、再び成長の軌道に乗ることを確信している。日本企業とともにこうした未来を共有していくことを期待している」と日本との協力について話した。

ロールス・ロイス、エンジン向け素材分野で、日本企業への期待大きく

 英国ロールス・ロイス社は、米国ゼネラル・エレクトリック(GE)社や米国プラット&ホイットニー(P&W)社と並ぶ、航空機用ジェットエンジンを製造する世界的なメーカーの1つだ。

ロールス・ロイスジャパンの神永晋社長

 ロールス・ロイスジャパンの神永晋社長は、CN実現にむけて、「3つの大きな柱を軸に取組を行っている」と話す。一つ目は現在のエンジン性能を上げて、燃費を向上させること。二つ目は燃料をSAF(持続可能な航空燃料)に代替するために必要な製品を開発すること。三つ目は、電気や水素燃料を活用した次世代航空機に向けた製品を開発することである。

 神永社長は、「世の中が変わるにつれて、必要な部品や技術も変わる。それにあわせ、日本の得意な技術を取り入れていきたい」とし、日本企業との連携に意欲を示す。

 特に注目しているのは、日本企業の持つ素材だ。航空エンジンの内部は1700度Cを超える。更なる高耐熱性や軽量化を果たし、かつ丈夫な素材をエンジン部品に用いることで、エンジン全体の燃費が向上する。現在はこうした耐熱素材はアメリカのメーカーが強く、世界的にも依存している状態だ。今後は、性能と品質を維持しつつリスクを分散し、価格競争力を持たせるため、ロールス・ロイスはポテンシャルのある日本の素材メーカーに大きな期待を寄せている。神永社長は、「航空エンジンは素材が命。特殊な素材も含め、日本国内で技術のある素材メーカーが供給する体制ができるとありがたい」と話す。

フランス政府は航空輸送の脱炭素化のため日本との協力を期待

 欧州では「飛び恥」運動が始まった2018年頃から、航空輸送分野における環境負荷を低減するよう社会的要請が強まっていた。更に気候変動問題に関するパリ協定の目標も加わったこともあり、フランス(仏)政府は、新型コロナ危機からの復興を、航空産業分野の脱炭素化を加速させる機会にしたいと考えている。

仏航空総局のシルヴァン・フール国際協力課長

 これまで、仏航空総局(DGAC)と経済産業省は、2013年に民間航空機産業における覚書を締結。加えて、2017年に欧州の航空機OEMであるエアバス社と、2019年にはエンジンや装備品を手掛ける仏大手企業のサフラン社と、主に新技術について連携を深めることで合意した。これらの合意を踏まえ、両国政府は共同研究開発事業への支援や、企業が参加するワークショップを開催するなど、日本企業と仏企業の連携を加速するための施策を実施してきた。

日本とフランスは志を同じくする国

 フランスは、2035年までのゼロエミッション航空機の社会実装を目指す。DGACは「航空輸送分野のCNを目指すため、私達は国際レベルで力を結集しなければならず、私達と志を同じくする日本はこの分野でフランスの最高のパートナーである。日本政府との議論は、今後の航空輸送の脱炭素化に関する日仏協力強化に向けた非常に重要な機会」と強調する。仏企業は、日本企業が開発中の新技術に特に強い関心を持っており、上述の2013年に締結した覚書に基づき、昨今も両国政府は、密に航空産業の脱炭素化に関する課題について意見交換を継続している。

 今回の連載では、CN実現に向けて、国内・海外の政府や企業がどのような戦略を描いているか(海外から見て日本のどのような技術が期待されており、日本としてどのような技術を磨いていくのか)を明らかにした。航空分野のCNに向けて、炭素繊維やそれを用いた複合材(CFRP)、水素、電動化といった日本が世界に誇る技術力を生かして貢献していく。それには、国内外の企業や研究機関、政府が連携して、取り組みを進めることが不可欠だ。

※次回の特集は、改正産業競争力強化法をめぐる動きを取り上げる。