地域で輝く企業

利用者ニーズに応える製品開発で、人々の豊かな食生活をサポート

三重県四日市市のニュートリー

ニュートリーの外観

 日々の暮らしにおいて、食べることに喜びを感じる人は多いだろう。しかし、病気や事故、体力の低下など様々な要因をきっかけに、食事を満足に摂ることが困難になる場合がある。すると食べる量が減り、結果的には健康を維持するための栄養が不足するという事態を招くことがある。高齢化が深刻な日本では、今後こういった悩みを抱える人口が増えると予想されている。三重県四日市市にあるニュートリーは病態に応じた方法で栄養を摂取できる「栄養療法食品」を提供することで、こうした社会課題の解決に取り組んできた。利用者のニーズに応える製品の開発で業界を牽引し、人々の豊かな食生活をサポートしている。

時代に先駆けた栄養療法食品を多数発売

 1963年に「三協製薬工業」として設立した同社。現社長の父が、病院の患者がチューブからすき焼きの煮汁を流し、栄養を摂取している現状を知ったこときっかけに、卵を原料とした粉末状の経管濃厚流動食「エグロン」を開発した。画期的な製品として支持され、その後も改良を重ね完全栄養が可能な濃厚流動食などを発売。1991年に就任した川口晋社長は、父の思想でもある「薬でなく食品に出来ること」を追求し、時代に先駆けた栄養療法食品を多数開発している。自身の代でより一層ブランド価値の向上に努める。

 2006年に三協製薬工業は、現在の「ニュートリー」へと社名を変更した。栄養を意味する「ニュートリション」と新しい歴史「New History」を組み合わせて名付けたものだという。同社の製品は医療機関や介護施設を中心に、近年需要が高まっている在宅医療の現場でも利用されている。川口社長は栄養療法の柱として「嚥下(えんげ)サポート」「栄養素補給」「流動食」の3つに重点を置き、自ら開発部長として付加価値の高い製品の開発を先導している。同社の製品開発の強みは、今までに無い、画期的な製品をエビデンスに基づいて生み出しているという点にある。川口社長は自ら、医学書や文献をウォッチし、最新の医学的知見から製品開発のヒントを得ているという。

嚥下サポート製品で、業界にインパクト

ニュートリーの製品群

 嚥下サポート分野の製品で、業界にインパクトを与えたのが「ソフティア」シリーズ。飲み物や食べ物にとろみをつけたり、ゼリー状にしたりすることで、嚥下機能が低下している人でも飲み込みやすくする製品群だ。市場では、とろみ材・ゲル化材などの容器は、スタンドパウチの袋が主流。しかし、転倒しやすく、保存容器への詰め替え作業が必要で、計量時に両手がふさがるなどの課題があった。そこで開発したのが、同シリーズ専用の新型容器「innobox(イノボックス)®」。本体に専用フタをセットすることで完成する。転倒しにくいBOXタイプで、保存容器への移し替えが必要なく、手間を軽減。調理中でもワンタッチで開く上、計量スプーンとすりきり棒で簡単に計量できる。製品ユーザービリティを高め、使い勝手が格段に向上した。今では同社を代表する商品の1つに成長している。

 流動食分野で高い機能性を持つ商品が「サンエットK2」だ。濃厚流動食は少量で高いカロリーが摂取でき、タンパク質やビタミンなど栄養分を効率よく摂取できる製品として知られる。サンエットK2は、製品一つで経口でも経管でも栄養補給が可能なデュアルユースの新発想製品である。医療機器「パックテイル経腸栄養セット」に直接セットできる仕様にした。経管投与時にシリンジなどへの入れ替えの手間がなく、簡便な操作で菌汚染リスクを回避できる。また開封しやすい便利なキャップ付きで、経口からの栄養補給が可能。容器に紙のパックを採用し、プラスチック素材を大幅に削減している。こだわりは容器だけではない。近年高齢者人口の増加により濃厚流動食の需要はさらに高まるといわれている。経管栄養法を伴う長期療養高齢者の課題として、寝たきりによる「褥瘡(床ずれ)」、免疫低下やチューブの菌汚染による「感染症」、流動食の栄養組成や薬剤による「下痢」の発生が挙げられる。それらの課題に対応するため、フルスペックの栄養組成に仕上げている。

 栄養素補給分野の代表製品がビタミン・ミネラル補助飲料の「ブイ・クレス」シリーズである。コラーゲンペプチドを10,000mg配合した「ブイ・クレスCP10」、乳酸菌E.フェカリスを6,000億個配合した「ブイ・クレスBIO」など病態別のラインナップに成長している。さらに飲み込みやすい食感となるよう、ゼリー状にした「ブイ・クレスゼリー」もあり、特別用途食品「えん下困難者用食品」のマークを取得している。発売以来、進化を続けているロングセラー商品だ。

地域や社会の医療に貢献

ニュートリーの今井雅則執行役員

 こうした機能性の高い製品がニュートリーのブランドを支えている。そして現状に留まることなく、ニュートリーは製品のリニューアルを進めている。以前は「嚥下のニュートリー」と呼ばれることもあった同社。しかし流動食や栄養素補給など、幅広い分野から高付加価値製品を世に送り出し、3つの事業の柱を確立した。さらに2017年には、画期的な容器包装「innobox(イノボックス)®」を採用したソフティアの発売に先立ち、四日市に新たな本社工場を稼働した。充填や積載工程の自動化を推進し、生産能力は稼働前の3倍に増加。ソフティアに留まらず製品の出荷量は年々増加しており、ユーザーに安定して供給できる体制を着実に整えている。本社近隣の運送会社などとも連携し、地域や社会の医療に貢献している。

 また近年では、より包括的な栄養療法を提供するための変革を進めている。流動食を経管で摂取する際に使用する濃厚流動食専用チューブを、自社商品として開発、販売している。これにあたり、新たに医療機器製造販売業及び医療機器製造業の許可を得た。今後もユーザーにとって快適な環境を提供する目的で、医療機器ビジネスを手掛ける考えだ。

国内外の高齢化に対応

海外の展開も着実に進める。高齢化は日本に限らず世界共通の課題だ。今後アジアを中心に展開を視野に入れている。既に食品安全の国際基準の認証に加え、ハラール認証やコーシャ認証を取得するなど、国内外に対応する体制を整えている。

 そして同社が更なるミッションとして掲げるのが、消費者庁が定める「特別用途食品」という法的枠組みの活用だ。栄養食品の市場はますます拡大している一方、安全かつ適正な使用環境の実現が課題となっている。「特別用途食品」は、「えん下困難者用食品」や「とろみ調整用食品」など通常の食事を摂ることが難しい人などに適するという、特別な用途の食品を定めるものである。規格を満たした製品には特別用途食品の印を記載することで、利用者が安心して使用できる目安となる。しかし同枠組みはまだ一般的に知られているとは言えない状況である。枠組みの活用を進め、医療従事者らへの案内を強化し、認知度を高めることで、より事業者とユーザーが正しく製品を使用できる環境を目指している。

【企業情報】
▽所在地=三重県四日市市富士町1-122▽社長=川口晋氏▽設立=1963年
▽売上高=約91億円