地域で輝く企業

生乳の加工製品を通して社会に貢献する

兵庫県洲本市のキド

設計から製造・納品までの一貫体制を敷く工場

酪農の近代化、省力化に力注ぐ

 1970年設立のキドは兵庫県の淡路島に本社を置く。食品用・医薬用機械のほか、化学分野やリチウムイオン電池分野などに向けた幅広い機器・設備の製造と販売を行っている。食品用では調合タンクやストレージタンク、冷水機やトンネルフリーザーなど、医薬用では培養槽やプロセス槽などを中心に手がける。一方、化学分野向けでは反応槽や重合槽、蒸留塔を主力としている。

 同社の前身は1947年創業の木戸農機具店。現社長・木戸清隆氏の実父が立ち上げた。創業当時は近隣の酪農家向けに、鎌やすき、くわなど手作業を中心に使用する農機具の製造・販売を行っていた。歴史をたどれば淡路島は1900年、西日本で最も早くホルスタイン(乳牛)が導入された地域ということもあり、地元には酪農家はもとより、生乳の加工製品を手がける事業者が多く存在し、こうした事業者の生産活動を同社が支えていた。

 その後、酪農の近代化が進展。乳製品を安定的に大量生産する食品製造業の増加を背景に、生産現場での省力化とコストダウンのニーズが高まりを見せた。このニーズの高まりに対応するべく、同社も業態の変革に取り組み、酪農の近代化・省力化に欠かせない設備機器の開発・製造に力を注いだ。

 現在の事業モデルのきっかけとなったのは、1973年頃に牛乳集配システムのトレンドが変化したこと。それまで主流だった輸送缶による集配に変わって、バルククーラーと呼ばれるタンクで集めて冷却し、タンクローリーに移して運ぶ方法が普及。この流れに合わせ、バルククーラーの開発に着手した。

 搾った生乳を速やかに冷却し、品質を低下させることなく生産現場に輸送するバルククーラーの開発においては、熱交換器や流体移送機器などを手がけるスウェーデンのアルファ・ラバル社と技術提携を行い、1973年に製造を開始。また、トンネルフリーザーについては産業ガスの大手メーカーである大阪酸素工業(当時)と共同開発するなど、国内外を問わずさまざまな企業と連携し、現在同社がラインアップする製品を次々と生みだした。

食品用機械の技術・ノウハウを蓄積

食品製造用タンク

 酪農用機械の開発・製造におけるこのような取り組みにより、基盤となる冷却技術を確立。これがその後の成長の源泉となっている。現在は加熱技術分野においても実績を積み重ね、食品用機械に求められるあらゆる技術とノウハウを蓄積している。

 高度化する顧客ニーズに対応できる設計・製造体制を整える同社であるが、木戸社長は「それまでの仕事で稼いでいくことはできたが、変化に応じた新たなビジネスモデルの構築が必要だった」と当時を振り返る。食品分野向けではステンレス加工に的を絞るなど、大手食品機械メーカーの下請け業務にも積極的に取り組み、業容を拡大。急ピッチで工場拡張を進めるとともに設備も拡充した。

 複数ある工場棟にはプレス機やレーザー切断機、複合旋盤やマシニングセンター(MC)のほか、溶接機などが配置されており、長尺対応の設備も充実。今では“技術力”と“設備力”が同社の武器となっている。「この頃、食品業界向けのタンク製造に不可欠となるステンレス薄板の加工技術を習得できたことは大きい」(木戸清隆社長)と続ける。

 ステンレス製品の供給先として食品製造業界は重要な市場であるが、兵庫県には食品メーカーや洋菓子メーカーのほか、飲料・調味料メーカーなども多くあり、現在、同社の売り上げ全体の約70%が食品分野向けで占められているという。

 創業以来、酪農分野や食品分野を中心に「食品の安全・衛生の確保がなによりも重要」をテーマに掲げ、地元事業者の生産性と品質の向上を支えてきた同社であるが、近年は地元にとどまらず活躍のフィールドを全国に拡大している。培った技術とノウハウを活用し、手がける分野も多岐にわたる。ステンレス加工や冷却・加熱を軸に、板金プレスや設計、制御などあらゆる技術を組み合わせ、酪農・食品機械分野のみならず、幅広い産業機器分野で、省力化と自動化に貢献している。

医薬・化学分野に参入

化学製造用のタンク

 2020年に設立50周年を迎えた同社。今後の事業のさらなる安定化を図り重視するのは、医薬・化学分野である。「ステンレス技術の強みを生かした事業展開を考えると、ワクチンや抗体医薬の業界、化学業界は需要拡大が期待できる分野。ここ4-5年、営業活動に尽力しており、技術も成熟してきた。今後5-6年は引き続き力を注ぐ」考え。(木戸社長)「その後は、環境・エネルギー分野。自動車向けリチウムイオン電池などの製造設備に関わる需要を取り込みたい」と先を見据える。

 木戸社長の右腕としてともに会社のかじを握る木戸社長室室長は「社員一人でできる仕事は限られているが、みんなの力を合わせてベクトルを同じ方向に向けて進めば、大きな力となる」と次の50年に期待を寄せる。

【企業情報】
▽所在地=兵庫県洲本市納201▽社長=木戸清隆氏▽設立=1970年▽売上高=約14億円(2020年3月期)