統計は語る

企業の生産マインド 「強気」姿勢に陰り?

5月、6月の生産計画から読み解く

 経済産業省では、毎月初旬に、主要製品の生産計画を調べている。調査対象製品を製造する企業のうち、主要企業を対象に、その月と翌月の生産計画を調査している。

 今回は、5月初旬に調査した5月と6月の生産計画の状況と、5月初旬段階での企業のマインド、つまり生産計画や見込みが強気だったのか、弱気だったのかを紹介する。

5月の生産計画とその補正値

 5月の生産計画は、季節調整済指数で前月比マイナス1.7%となり、低下の見込みとなった。この計画どおりに生産されれば、5月の鉱工業生産の実績は、3か月ぶりの前月比低下となる。

 また、6月の生産計画は、この5月の計画から5.0%上昇という計画になっている。

 生産計画は、生産実績よりも上振れする傾向がある。そこで、5月の生産計画について、生産実績との間で生じるであろう「ずれ」を統計的に計算、補正することで、5月の生産実績の見通しを推計した。

 その結果、5月の生産実績の見通しは、前月比マイナス2.5%程度と推計され、低下はするものの、4月の上昇分(前月比2.9%上昇)と比較すると、その低下幅は小さくなると見込まれる。

生産計画の伸びを当てはめた鉱工業生産のグラフ

 生産計画の伸びを6月までの鉱工業生産指数に当てはめてグラフ化すると下のようになる。

 4月の鉱工業生産指数実績(確報)は100.0であるため、調査結果の伸び率マイナス1.7%をそのまま当てはめれば、5月の指数水準は98.3に低下する見込み。

 ただし、生産計画と生産実績の間には傾向的なバイアスがありますので、このバイアスを過去の傾向に基づき補正すると、5月の伸び率は最頻値ではマイナス2.5%程度となり、この場合、5月の指数水準は97.5と更に低下する可能性がある。

 なお、 6月の生産計画は、前月比5.0%上昇の見込みで、仮に5月の生産が計画通り(前月比マイナス1.7%)であったとすると、6月の指数水準は103.2と、4月を超える水準となる。

 生産計画からは、5月は低下する可能性が高くなるが、6月の生産で5月の低下を挽回することが期待される。

生産計画の強気と弱気

 生産計画を、前年同月の実績と比較すると、この生産計画がどの程度、強気なのか弱気なのかを判断する一つの目安となる。ただし、前年の実績が例年よりも大幅に増加又は減少している場合には、その点を考慮して判断する必要がある。

 今回、5月の生産計画を原指数で見ると、前年同月実績比33.4%の上昇となり、6か月連続で前年同月実績を上回った。

 ただし、前年2020年の5月生産実績は、感染症拡大の影響により、前年同月比でマイナス29.5%と大きく減少していることから、生産が大幅に減少した2020年と今回の数値を単純に比較して判断するには注意が必要である。

 感染症拡大の影響を受けていない前々年2019年5月の生産実績と比較すると、今回5月の生産計画はマイナス6.0%となり、例年と比べると、必ずしも高い水準ではないことが分かる。

 企業の生産計画は感染症拡大による影響からは回復しつつあるが、例年の水準と比べると、強気というほどではないと考えられる。

 次に、1か月前時点で調べた生産計画が、生産開始直前に調べた生産計画と比べ、どの程度変動したかを示す数値が予測修正率となる。

 5月の予測修正率はマイナス1.5%と、2か月連続の下方修正となっている。2020年7月以降、生産計画は上方修正される傾向が続いたが、2021年に入ってからは、下方修正される月も目立ち始めている。

 企業の生産マインドは弱気とまでは言えないものの、これまでの強気の傾向に少し陰りが見られると考えられる。

 生産計画を上方修正した企業数の割合から、下方修正した企業数の割合を引いた数値を「アニマルスピリッツ指標」と呼んでいる。この指標は、企業の生産計画の強気、弱気の度合いを推し量るために活用している。

 この指標の推移とこれまでの景気循環を重ねると、概ねマイナス5を下回ると景気後退局面入りしている可能性が高いという傾向がみられている。

 生産計画の5月調査結果では、アニマルスピリッツ指標は7.2と10か月連続でプラスの数値となった。月々の上下動をならしたトレンドでも大きくプラスの数値で推移しており、生産マインドには依然強気が優勢な様子がみられる。他方で、指標自体は、プラスの値を維持しているものの、2か月連続で前月比低下となっており、強気優勢に少し陰りがみられる。

 5月調査では、強気の割合が2.8ポイント低下、弱気の割合が1.6ポイント低下と、強気・弱気ともに低下となった。強気の低下幅の方が大きかったため、アニマルスピリッツ指標は前月から低下したが、依然として、強気が弱気を上回っている。

 2020年6月以降、国内外での経済活動の回復が進んできたことにより、企業の生産マインドの改善も進み、引き続き、企業の生産マインドは強気が優勢な結果となっているが、強気の割合が減少する傾向にあり、ここでも、強気優勢に少し陰りが見られるようだ。

 5月の調査結果では、アニマルスピリッツ指標がプラスとなっており、企業の生産マインドは強気が優勢な状況が続いているとみられるが、生産計画の水準や予測修正率を見ると、強気優勢に少し陰りが見られる。

 感染症の拡大による内外経済の下振れリスクや、半導体不足による影響などの先行きの不透明感が企業のマインドに影響を及ぼしている可能性もあり、6月以降の調査でも注意深くみていきたい。

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