地域で輝く企業

研究開発を計測で支える九州計測器

その経営ノウハウとは

充実種子を選別する装置

 人の暮らしを安全、快適、豊かにしてきた科学技術。その発展は正確な計測を抜きにしては成り立たない。技術の高度化には必ず計測の高度化の支えがあった。九州を中心とする大学など研究機関の計測や検査、実験を計測機器をはじめ関連サービスで支えているのが九州計測器。技術者が起業して地域の研究活動に貢献してきた。開発機能も持っており、バイオや環境などさまざまな分野で新たな計測を提案。研究、開発から生産ラインまで幅広い場所で計測ニーズに応えている。

計測に関連するノウハウを蓄積

 創業は1973年。電気部品や電材の会社に勤める技術者だった創業者がさまざまな商品の取り扱いを始め、その中に計測器もあった。大学などに営業に行くと、技術者の経験を生かし、研究活動に必要な電気回路作りを頼まれて手伝うなどしていた。そのようにして信頼関係を築くとともに計測に関連するさまざまなノウハウを蓄積してきた。研究者との関係を深く広くしていきながら取り扱う研究用の部材や計測器を増やしていった。

商品より先に要望や相談

 九州計測器とユーザーの間には商品より先に要望や相談がある。それに合った機器を提案し、なければ自社で開発して作る。メーカー機能が強みでユーザーとの共同開発による特注品が多いのも同社の特徴。ソフト開発能力も持つ。過去には、日本では珍しかったパソコンメーカー・SORD(ソード)の製品を扱い、インターフェースボードなど周辺機器を含めたシステムを構築して製品化したこともある。それを契機に仕事の幅を広げ、民間の顧客も増やした。ユーザーの中には大手企業の開発担当部門もある。

 計測器の販売では後発ながら成長を続けてきた理由の一つに開発とモノづくりの能力がある。技術部門を常に置き、モノづくりを地道に続けた。「ただ仕入れて売るだけでは同業者と差別化しにくかった」(岩倉弘隆社長)ことも背景にある。ただ、目指す測定を追求した結果として、これまでになかった測定の開発を求める顧客は絶えなかった。

開発テーマにはニッチな分野も少なくない

 開発テーマにはニーズはあるが、大きな市場は見込めないニッチな分野も少なくない。

 杉、ヒノキ、カラマツの種子の充実種子を選別する装置は発芽の可能性に関係する脂質を1粒ずつ調べて選別する。発芽に関係する脂質に着目し、赤外線を使って調べる装置。林業現場の作業負担の軽減や効率化につながる。林業関係者から相談があり、大学が持つ技術シーズを生かした産学連携で開発した。

 同社は赤外線センサーのノウハウを持っており、試行錯誤で1粒ずつ調べる機構も実現した。同装置は自治体や林業関連の組合などでの普及を見込んでおり、販売実績を積んでいる。種子自動供給装置も開発し、長時間の選別を可能にした。選別では樹脂系素材をセンサーを使って選別するなどの技術も持つ。

 福岡県内の大学や地域で産業振興の取り組みが盛んな分野に関連する技術にも力を入れている。

 水素エネルギーでは産業技術総合研究所などと連携、水素に反応して透明になる薄膜を使った検知技術をはじめ、超音波による濃度測定、多点計測技術で分布や拡散、漏えいをリアルタイムで可視化する技術もある。安心安全な水素エネルギー利用の普及に貢献していく考えだ。

豊富な見える化のノウハウ

 同社は基本的に水素以外にも電気信号に変換される物理現象であれば、電磁波や振動、音、温度など目に見えないものを数字で表すデジタル化や可視化が可能だ。普及が進むIoT(モノのインターネット)技術に関しては、IoTで取るべきデータを探していく過程で計測が活躍する可能性がある。

 水素や有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)、バイオテクノロジーは福岡県が産業振興に力を入れる分野。水素以外では有機EL発光特性評価システムがあり、輝度と電圧電流を測定する。バイオ関連では、抗原抗体など生体分子の相互作用を調べる表面プラズモン共鳴(SRP)分析装置を開発、製品化している。

 空気の流れや温度のセンシングも豊富な実績がある得意技術。多チャンネル対応では温度が変わると振動数が変わる水晶温度センサーを駆使し、効率良く複数箇所を同時に測れる。制御やセンサー、データの見やすさなど計測しやすくする技術を組み合わせてシステムとして提案することもある。空調関連では温度や風速を3次元の立体的な空間分布に時間変化を加え、色分けして可視化する。見える化のノウハウは豊富だ。

品物だけではない価値を提供していく

「品物だけでない価値を提供していかなくてはいけない」と岩倉社長

 岩倉社長は「計測は顧客と長く付き合うビジネス。品物だけでない価値を提供していかなくてはいけない」と話し、研究人材の育成にも貢献していきたい考え。中長期的には「研究開発サービス業」を確立したいと考えている。また新型コロナウイルス対策を受けて「今後はリモート計測という話も出てくるかもしれない」と予想。同社としてもデジタル変革(DX)を進める方針で、デジタルマーケティングも視野に入れている。
 
【企業情報】
▽所在地=福岡市博多区山王1丁目6-18▽社長=岩倉弘隆氏▽設立=1973年▽売上高=30億6000万円(2020年8月期)