政策特集ドローンがある日常、その先の未来 vol.5

ドローン防災のパイオニアによる、ドローン活用術と組織づくり

静岡県焼津市 中野弘道市長がドローンの導入による市民と町の変化を語る

焼津市長・中野弘道さん

 「BLUE SEAGULLS(ブルーシーガルズ)」や「SKY SHOOT(スカイシュート)」といった、全国的にも珍しい防災分野でのドローンチームを結成している静岡県焼津市。その背景やドローンの導入による市民と街の変化について、焼津市長の中野弘道さんに伺った。


数人から始まり、15人の精鋭部隊になったBLUE SEAGULLS


 ―防災や災害対策にドローンを導入した経緯を教えてください。

 「焼津市といえば焼津港が有名なので、海のイメージが強いと思いますが、北東部には山間地域が広がっています。2015年に土砂の崩落が発生したとき、山間部ということもあり現場の詳しい様子がわからず、災害対策の遅れが発生しました。それが教訓となり、上空から見ないと状況を正確に把握できないという議論になり『ドローンがあれば上空から確認できるのでは?』と。その期待から、焼津市としてドローンを導入することを決めたのです」

 ―2015年というと、一般的にはドローンの存在がようやく認知され始めた頃ですが……。

 「防災分野におけるドローンの導入は、全国の自治体に先駆けて行なったと自負しております。その甲斐あってか、新型コロナウイルスの感染拡大前は、他の自治体が年20~30回ほど視察に来てくださいました。導入経緯、活用事例、組織化などについて聞かれ、地元に持ち帰って実践されているようです」

 

焼津市で導入されている「Matrice210」

 

 ―ドローンを使用した防災のパイオニアだからこそですね。ただ、ドローンがまだメジャーではなく、かつ安全面への懸念もあった頃に、市民の皆様にはすんなりと受け入れてもらえたのでしょうか。

 「焼津市民、特に山間地域の方の中にも『災害が起きたとき、どこで何がどうなっているのかわからない』という問題意識があったため、我々の導入結果を見ていただくことで、『ドローンは今後活用できそう』とご理解をいただけました」

 ―最初は操縦できる人が少なかったと思いますが、どのようにして操縦士を増やしていったのでしょうか。

 「最初は市の職員数人を操縦士として育成し、現在は組織化をして15人ほどが操縦できるようになっています。導入が早かったものですから、当然経験者はおらず、ラジコンなどの機械が好きな者やドローンの存在を初めて知った者など、バックグラウンドは様々。その後、段々と人数が増えていき、訓練を重ねていったおかげで多くの操縦士が誕生しました」

 ―具体的には、どのような訓練をされているのでしょうか。

 「基本的な操縦方法はもちろんのこと、志太消防本部と連携した訓練や水難救助を想定した訓練、夜間の山岳救助事案を想定した捜索訓練なども行っています。スピーカーから音声を発したり赤外線カメラを用いたりすれば、仮に山奥に救助を求める人がいたとしても発見の可能性が上がります」

 ―ここからは「組織化」について伺います。先ほどの操縦者によるドローン防災のチームがあるそうですね。

 「はい。焼津市防災航空隊『BLUE SEAGULLS』(ブルーシーガルズ)が2016年に発足しました。大規模災害や火災時にすみやかに出動するのはもちろんのこと、水難救助や山岳救助など様々なケースで活動を行い、迅速な応急対策の検討に役立てています」

 

BLUE SEAGULLSの活動風景

 

 ―全国的にもかなり珍しい取り組みです。「BLUE SEAGULLS」が発足してから、どんなことに苦労されましたか。

 「とにかく全国初でしたから、先行事例がないことに苦労しました。安全に対する法令をくまなく確認することから始まり、人財育成のノウハウもないので一から整えていきました。かつ、10時間以上の操縦訓練が必須条件なのですが、通常勤務の合間に行う必要があるので、その訓練時間の確保も課題でしたね。2022年にドローン操縦の免許制度が始まるので、新たに挑戦すべき課題の一つであると考えております」

女性の活躍の場所になっているドローン隊「SKY SHOOT」

 ―加えて、2020年には「SKY SHOOT」という消防団のドローン隊も結成されていますよね。両チームの違いは何でしょう?

 「『BLUE SEAGULLS』は市の職員で構成しており、『SKY SHOOT』は消防団で結成しているチームです。元々消防団は男性社会で、現場での活動など男性が中心となることが多かったのです。しかし、ドローンの操縦やオペレーションなど、女性が新たに活躍できる場が増えたと感じています。実際、『SKY SHOOT』には4人の女性パイロットが活躍しています」

 ―女性の新たなキャリアにも繋がりそうですね。ドローンを導入されて、どのような効果が生まれているのでしょうか。

 「まず、業務のコスト削減が実現されています。たとえば、屋根が剥がれてしまった建物の写真を撮るとき、わざわざ足場を組んで撮りに行くよりも空撮した方が早いし安全です。また、住民の皆様にとっては、今まで以上に安心した生活ができるようになったのではないかと考えています。機体も決して安くないですし、保守点検や消耗品の購入などにもコストがかかりますが、それ以上に大きな成果が生まれていると実感しています」

 ―最後に、焼津市におけるドローン活用の未来展望について聞かせてください。

 「これからは、“生活の中にドローンが当たり前にある”環境を作っていきたいです。例えば、荷物の宅配をドローンで任せるなど、車で行なっていることをどんどんドローンに転換できればと考えています。さらには、水中ドローンも活用して、防犯や防災のほか、漁場や海中の調査などにも役立てていきたい。そして今まで以上に、安全・安心な街づくりを進めていきます」