統計は語る

コロナ禍は企業の生産計画にどんな影響を及ぼしたのか

リーマン・ショック時との比較

 経済産業省では、景気動向などの判断資料として、製造工業の生産実績と当月、翌月の生産計画を調査し、製造工業生産予測指数として公表している。今回はこの指数を通じて、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が始まってから約1年、企業の生産計画や生産活動にどのような影響を与えたのかをみてみる。

リーマン・ショックより企業の想定を超えていた

 現行基準(2015年=100)の予測指数で確認できる、2013年2月調査から2021年2月調査までの製造工業全体の実現率(毎月の調査時での前月実績が、前月の生産計画(当月見込)に対して実現した比率)は、平均でマイナス1.7%となっている(標準偏差は1.5%)。 このように、企業の生産実績は元々月初の計画に対して下振れする傾向がみられるが、新型コロナウイルス感染症が拡大し始めた2020年4月の実現率をみてみると、マイナス10.4%、5月の実現率はマイナス7.3%と、突出して大きな低下となっている。また、予測修正率(毎月の調査時での当月の生産計画(当月見込)が、前月の生産計画(翌月見込)に対して修正された比率)をみてみると、平均はマイナス0.7%となっている(標準偏差は1.7%)。

 つまり、企業の翌月見込みの計画も、ひと月経つと計画は小幅に下方修正される傾向がみられるが、2020年4月はマイナス7.1%、5月はマイナス12.9%、6月はマイナス5.6%と、こちらも突出して大きな低下となっている。

 このように企業の生産計画が大きく下方修正されたのは、過去を遡るとリーマン・ショック時と東日本大震災時となっている。 基準年は異なるが、当時の2005年基準の予測指数をみてみると、リーマン・ショック時は2009年1月調査で、実現率がマイナス6.7%、予測修正率がマイナス9.9%の低下、東日本大震災時は2011年4月調査で実現率がマイナス20.3%、予測修正率がマイナス16.5%の低下だった。

 当時の低下も2005年基準内でのそれぞれの平均(実現率:マイナス1.2%、予測修正率:マイナス0.9%)や標準偏差(実現率:2.1%、予測修正率:2.3%)と比べるとかなり大きな低下となっているが、昨春、感染症の拡大に直面した企業は、基準年が異なるため同等の比較は難しいものの、リーマン・ショックを超える規模での生産計画の大幅な下方修正を迫られた様子がうかがえる。

生産計画の大幅修正に寄与したのは…

 今回2020年春の感染症拡大時と同様に世界的な経済危機となったリーマン・ショック時と今回との違いを探るため、それぞれどの業種がどの程度影響したのかみてみる(業種のくくりは基準時点を採用)。

 まず、今回の感染症拡大時をみると、実現率、予測修正率ともに輸送機械工業の低下が、他の業種と比べても大きく影響している。

 他方、リーマン・ショック時は、実現率の低下については輸送機械工業の影響は小さく、他の業種の影響が大きかったことがわかる。このことから、当時の輸送機械工業は、ほぼ当月の生産計画通りに減産を行っていた様子がうかがえる。

 一方、予測修正率の低下については、リーマン・ショック時も輸送機械工業の影響は通常の時期より大きいことから、輸送機械工業は想定以上の需要の減少に直面し、前月に立てた翌月生産計画の下方修正を余儀なくされたと推測される。その下方修正の程度は今回ほどではなかったが、通常より大きな修正が半年にわたり続くこととなった。

輸送機械工業は生産計画を迅速に修正

 リーマン・ショック時と今回2020年春の感染症拡大時とで、企業の生産計画の大幅低下が生じた要因を業種ごとに比較してみると、今回は特に輸送機械工業で実現率、予測修正率がともに大きく低下したことが要因であったことがわかる。このことから、一見、今回は輸送機械工業ではリーマン・ショック時ほど需要の低下を予測出来ていなかったようにも思われるかもしれない。

 しかし、今回の感染症拡大局面においては、輸送機械工業はこの生産の急速な低下により、下のグラフの在庫率の急減にみられるように在庫の積み上がりを防ぐことができ、6月以降、輸送機械工業は生産をいち早く回復させることができた。リーマン・ショック時は世界的な需要収縮による在庫積み上がりの影響が長引いたことを考えると、今回はむしろ需要の低下を見越して生産計画を迅速に修正したとみることができる。つまり、今回の感染症拡大時での実現率と予測修正率の大幅な低下は、輸送機械工業の需要予測と生産調整能力の進化を表すものとも考えられる。

 新型コロナウイルス感染症の世界的大流行は、今も企業の生産活動に大きな影響を与えているが、最近は予測指数の実現率も予測修正率もコロナ禍前と同程度となっており、企業が直面している不確実性は通常程度に戻った様子だ。感染症については世界各国や日本でもワクチン接種が開始されており、企業の生産も復調が続くことが期待されるが、今後も想定を超える大きなリスクに直面すれば、実際の生産は計画から大きく下振れする可能性がある。その際には予測指数で実現率や予測修正率の低下要因を業種ごとにご覧いただくと、その後の生産回復の見通しを考える上でも参考になるのではないか。