地域で輝く企業

生活必需品の質感を作り出すポリマー、根上工業のオンリーワン「重合」

「誰にでもつくれる製品はつくらない」がモットー(根上工業の製造プラント)

 ファンデーションの「さらさら感」。ジェルネイルの「厚み」。プラスチック塗料や合成皮革の「スエード調の触り心地」。これらの機能は、根上工業(石川県能美市)が製造する「ポリマー」によって発揮されている。さまざまな重合方法を用いて開発された機能性ポリマーは、華々しく目立つ存在ではないが、モノづくりに欠かせない縁の下の力持ちだ。その製品の特長は同社の業界における立ち位置とも似ている。「誰にでもつくれる製品はつくらない」がモットー。顧客の要求に必ず応えるカスタマイズ力を武器に付加価値の高い製品を供給してきた。

 製品群は、真球状架橋ポリマー微粒子・熱可塑性アクリル樹脂・UV/EB/熱硬化型樹脂(アクリル系・ウレタン系)。販売分野は化粧品、自動車、建材、電子材料と多岐にわたる。1972年の創業当初は繊維加工業者が主な顧客だったが、現在の繊維向けの売上は全体の2%を切っていることからも、時代とともにビジネスの裾野を広げてきたことがうかがえる。

 同社にとって最大の転機は、1990年頃に顧客の要求に応え、色がついていて溶剤に溶けないポリマーを開発したことだった。それに合わせて工場も新設。「4、5カ月は平均睡眠時間が3時間くらいで土日もなしで働いた。変わったものをつくっているから誰も手伝ってくれなかった」。屈託無く笑うのは、社員番号12番、1973年から同社で研究開発に携わってきた菅野俊司会長。新開発のポリマーは、当時大ヒットを記録した大手家電メーカーの大型ブラウン管テレビのハウジングや、大手自動車メーカーの人気車種のインパネに採用された。

 現在の主力の売上を担うのは、化粧品や自動車関連、スマートフォンやタブレットのタッチパネル向けの製品。特にポリウレタン系の弾性微粒子「アートパール」は世界的なシェアを有しており、化粧品用途としては世界で最初に販売を開始し、現在も独占している。自動車の電動化も半導体の材料を販売する同社にとっては追い風だ。

 しかし、2019年11月に菅野会長からバトンを受け継いだ西田武志社長は「残念ながら今売れている商品のベースはほとんどメイドバイ菅野なんですよ」と苦笑いする。上記のアートパールも菅野会長の会心の開発品だ。「今ある製品を少しリニューアルするだけではなくて、根本から違うものを開発していくことが課題。ちょうど過渡期に差し掛かっている」と西田社長は危機感をにじませる。

 従業員の3人に1人が研究職で、同社の競争力の源泉でもある。「特に若手は自分の仕事を黙々とこなすだけではなく、さまざまなことに興味を持ち視野を広げてほしい」と西田社長。4月から三つある研究グループを一つにして、縦割り意識を排除する考えだ。研究開発の種は蒔かれつつある。欧州連合(EU)が2026年までに化粧品でのマイクロプラスチック使用を禁止する通達を出したように、高まりつつある環境対応製品へのニーズを掴むことだ。

環境対応で大きなチャンス

 現在、化粧品業界で使われているシリコン、ナイロン、アクリル、ウレタン、スチレンなどがいずれは規制され、天然由来の製品が使われるようになった暁には大きなチャンスが到来する。同社は既に6、7年前から研究に取り組み、セルロース100%で真球状の微粒子の開発に成功した。目下の課題は生産性だ。セルロース以外の天然素材を使った製品の開発も急ぐ。

菅野会長(左)と西田社長

 来年は創業50周年の節目。後の代の人にも根上工業がどうやって大きくなったのか分かるようにと、社史を編纂している最中だ。同社の創業者の辻勝美氏は『会社が社員の人間らしい生活を守る』『顧客と同じようにサプライヤー、協力会社も大切にする』を基本に経営を行ってきた。4代目社長を務めた菅野会長は、『顧客の要求に必ず応え、役に立つ』をモットーに社員120人売上高60億円の企業に成長させた。5代目の西田社長は根上工業らしさを守りつつ、会社の存続を見据え進化を遂げようとしている。

【企業情報】
▽所在地=石川県能美市道林口22▽社長=西田武志氏▽創業=1972年▽売上高=約51億円(2020年9月期)