地域で輝く企業

地域に愛され地域に貢献するサッカークラブチーム

まもなく創設30年 水戸ホーリーホックが築いてきた絆

 

J1昇格に向けて2021年シーズンがスタートした(水戸ホーリーホック提供)

 サッカーJリーグ・水戸ホーリーホックを運営する「フットボールクラブ水戸ホーリーホック」は、サッカーを通じた地域の活性化に取り組んでいる。市民クラブとして経営手法を工夫しながら地域貢献活動を積極的に実践。地元のファンを地道に拡大してきた。市民に明るい話題を届けて地域の活力を高めるとともに、地域の魅力を高めて経済の発展にも貢献している。

「ファンベース」拡大に手応え

 水戸市を中心とした茨城県央地域の9市町村をホームタウンとする水戸ホーリーホックは、J2に参入して2021年で22年目のシーズンを迎えた。近年はJ2で上位争いに絡むなど、チームの実力は着実に向上。同時に、事業規模も右肩上がりに推移している。
 「ファンベースが着実に拡大している。ファンベースとは、我々を強く支えてくれるお客さんであり、固定客とも言い換えられる。このファンベースを増やす活動に注力してきたことが、今につながっている」と小島耕社長は手応えを語る。
 これを裏付けるように、2021年1月期は営業収入が7億6500万円の見通しで、過去最高を更新したもようだ。昨シーズンはコロナ禍で試合の延期や入場制限があった。それにもかかわらず、シーズンシートの払い戻しが少なく入場料収入は減少幅が抑制。さらに、グッズ収入や広告料収入が好調だった。

地元チームを応援するファンが着実に増加(水戸ホーリーホック提供)


 同クラブでは数年前に無料チケットの配布をやめている。観戦のためにお金を払い、困難な状況下でもスタジアムに足を運んでくれる一定のファンが着実に増えているのだ。チームの強化に加え、地元の学校訪問などの地域貢献活動を長年地道に続けてきたことが、成果となって表れてきた。

予算規模こそ小さくとも

 水戸ホーリーホックは責任企業を持たない市民クラブである。予算規模もJ2の22クラブ中20番目。巨額の資金を基に選手を集め、チームの実力の底上げを図ることはできないし、そうした経営方針も掲げていない。
 「究極の目的は当然チームが勝つこと。とはいえ、逆の究極は、チームが弱くても応援し続けてくれるファンがいることだと私は思う。ホーリーホックという存在が地域に愛されていることが何より大切だ」と小島社長は語る。

小島耕社長(右)と沼田邦郎前社長(アツマーレの練習拠点で)

 もちろん、チームが愛されるための条件の一つとして、チームの強さは関与する。そのため、事業規模が拡大した分はチーム強化に予算を振り向ける。一方、地域貢献に関する事業や、地元選手を育成する下部組織の強化にも同じ割合で予算を配分している。
 どんなクラブになれば地域に愛されるかという方向性は、東日本大震災以降に特に議論が深まり、現在の成長の一つの要因になった。今回のコロナ禍も同クラブとっては、地域との結びつきを確認し、さらに強固なものにしていく契機になりそうだ。

廃校が練習拠点 町民と日常的に触れ合う

 水戸市街地から車で北西に約1時間。茨城県城里町の丘陵地帯にある城里町七会町民センター「アツマーレ」が、水戸ホーリーホックの練習拠点だ。天然芝のサッカーコート2面にトレーニング室、クラブハウスなど練習環境が充実。フロントの事務所も置く。人口減少による統廃合で使われなくなった公立中学校の校舎やグラウンドを改修したもので、ホームタウンでもある城里町の誘致を受けて2018年に開設した。「18年から3シーズン連続で10位以内を維持できたのは、この充実した練習環境が大きい」と小島社長は話す。
 廃校を練習拠点に再利用するのは全国のプロスポーツクラブでも珍しい。施設内には町の支所が置かれ、町民のスポーツ活動や文化活動でも活用されている。一般の町民が当たり前のように周囲にいる環境は、選手が社会性を獲得する機会にもなっている。

アツマーレのトレーナー室には黒板など中学校の名残も

 水戸は、選手の人間性を高めるクラブとして、他のクラブからも一目置かれる存在だ。J2の選手は、出場機会を求めてJ1のクラブから移籍してきた選手、J3のクラブから這い上がってきた選手など事情はさまざま。J2の中でも予算規模の小さい水戸は、選手獲得に際し、金銭面で有利な条件は提示しにくい。それでも、サッカーに集中できる環境があること、精神的にも成長できることは、選手にとって魅力となっている。

人間的な成長を促す

 水戸ホーリーホックでは、選手やスタッフの人間的な成長を促すことを目的に、「メイク・バリュー・プロジェクト」(MVP)を推進している。医学や文化の専門家、地域企業の代表者による講演会、パートナー企業と選手との合同の研修会などさまざまな内容を実施。アツマーレを拠点に、シーズン中でも週に1回は必ず同活動に時間を割いている。
 「MVPの活動を通じ、普段の会話での言葉の質や態度が良い方向に変化する選手が出てくる。それは、プレーにも影響する」と小島社長は説明する。心身共に成長した選手が上位クラブに移籍していくこともあるが、選手を育てた事実こそがクラブの価値になる。
 さらにMVPには地域貢献などさまざまな側面がある。その活動に参画した地域企業は、自社のPRや人材育成に役立てることもできる。同時に、クラブのスタッフや選手との交流を通じてチームを深く応援するようになる。
 水戸ホーリーホックはクラブの使命として、「人が育ち、クラブが育ち、街が育つ」という理念を掲げる。「スタッフ、選手を含むすべての関係者がこのクラブで人間的な成長を遂げることが第一。それがクラブの事業規模を拡大し、ひいては地域貢献につながる」。小島社長は理念に込めた思いをこう語る。
 この理念は2008年に沼田邦郎前社長が打ち出したものだが、2020年7月に新社長に就任した小島社長もこれを継承し、発展させていく考えだ。
 クラブ創設30周年の2024年に向け、新スタジアム構想の具体化も進む。新たな価値を創出し続けて地域をけん引する企業として、存在感は今後さらに高まっていきそうだ。

【企業情報】
▽所在地=茨城県城里町大字小勝2268の3▽社長=小島耕氏▽創立=1997年2月▽営業収入=7億6500万円(2021年1月期予想)