フードテックが加速する「食のボーダーレス化」
ロイヤルHDの店舗戦略にみる「これからの食卓」
食の世界に技術革新を取り入れる「フードテック」。培養肉や代替肉といった食材そのものの進化や新たな生産技術が脚光を浴びるが、産業としてのすそ野の広さや可能性はこれにとどまらない。ライフスタイルの変化や社会のニーズを反映し、外食産業のビジネスモデルにも変化を及ぼしつつある。
次代を見据えた「戦略店」
ファミリーレストラン「ロイヤルホスト」などを運営するロイヤルホールディングス(HD)が2019年末、東京・世田谷にオープンした新店舗「GATHERING TABLE PANTRY二子玉川」。一見、どこにでもあるレストランだが、実は同社が数年来、蓄積してきた次世代の店舗運営ノウハウを体現した戦略店である。
少子高齢化に伴い、困難になる働き手の確保や「外食」「内食」「中食」のボーダーレス化など外食産業を取り巻く環境を踏まえ、少ない経営資源で効率的かつ柔軟に運営できる店舗運営を模索してきた同社。2017年には研究開発型店舗を東京・中央区に構え、完全キャッシュレス決済システムやセルフオーダーシステムの導入など店舗運営のIT化、最新技術を活用した調理工程の効率化などについて検証を重ねてきた。
家庭でもプロの味
例えば油や火を一切使わない調理スタイル。自社のセントラルキッチン(集中調理施設)で手間をかけて調理し冷凍配送したメニューを、店舗では専用オーブンで加熱調理する。ベテランコックが調理したのと同様の熱の入り方となるよう、細かくプログラミングされた専用オーブンをメーカーと共同研究。クリーンなキッチンであることから、出店エリアの選択肢も広がる。
二子玉川店のもうひとつの特徴は、テクノロジーを駆使した次世代型店舗であることに加え、実現のカギを握る「フローズンミール」を新ブランド「ロイヤルデリ」として本格販売を始めた点にもある。湯煎や電子レンジで温めるだけですぐに楽しめるスープやショートパスタ、ドリア、煮込み料理のほか、アジアのローカルフードなど世界各国の料理を取りそろえている。折しも、コロナ禍で外出機会が制限されるなか、日々の食卓を充実させたいとの消費者ニーズを捉え、販売は順調に拡大。同社にとって今後、店舗はショールーム的な意味を持ち、消費者が気に入った味は、冷凍食品として購入できるようにすることで新たな顧客拡大につながる余地も大きい。
変わる「食卓」 新たな市場を創出
緊急事態宣言解除の後も、しばらくは新型コロナウイルスの感染リスクは払拭(ふっしょく)できないなか、自宅で「食」を楽しむ傾向が続くことが予想される。
「手間をかけずに、本格的な味わいにこだわりたい」。こうした消費者ニーズは、これまでの調理家電や鍋と一線を画す、新たな市場を生み出している。材料を投入しメニューを選択すれば、あとはできあがりを待つだけの電気調理鍋や複数の調理機能を搭載した高機能オーブンは一例である。
フードテックには食のスタイルはもとより、食卓を彩るメニューそのものも変えるインパクトがある。