地域で輝く企業

若き挑戦者が切り拓いた国産メンマの新境地

食通をうならせる秘密とは

ラーメンに限らず幅広く食卓を彩るメンマ

 人間の背丈ほどに成長した若竹を加工した食品のメンマ。シャキシャキとした独特の食感が特徴で、ラーメンに添えられる定番として親しまれるほか、ご飯やお酒に合うメニューでも活躍する。ただ、そのほとんどは中国製で国産はわずか。その国産メンマを福岡県糸島市で製造しているのがタケマン。業務用を中心にラーメンの作り手に寄り添った製品で顧客を増やし、国産メンマの需要を創造している。また、竹林のある地域と連携し、原料を供給する産地の育成にも取り組む。

諦めきれずに

 吉野秋彦社長がタケマンを創業したのは2013年。創業以前に吉野氏は、メンマを製品に持つ食品加工メーカーに勤め、中国の工場で生産管理を担当していた。タケマン創業の背景には中国産の食品に厳しい視線が注がれていたことがある。吉野氏は、勤めていた会社でメンマの国産に挑戦したものの、必要な量を作るための人や材料の確保が難しく断念した経験もある。それでも諦めずに出身地の福岡で独立して事業化に乗り出した。
 現在のタケマンが主力顧客とするのはラーメン店などの飲食店。後発にもかかわらず、とりわけここ数年で急速に取引先を増やし、現在約2000店に上る。「ミシュランガイド」で星を獲得した店など食材からこだわる店が多いという。営業活動ではなく紹介などの口コミで取引を増やしてきた。飲食店との取引では、多くのメーカーが食品商社を通じる中、タケマンはユーザーとの直接のつながりを重視する。吉野社長自ら店を回って顧客の要望を聞いてきた。

地域名「糸島」を冠した製品もある


 タケマンの製品コンセプトを吉野社長は「作り手の気持ちに寄り添い、料理の邪魔をしないこと」と話す。メンマを使う料理の表現ため、どう貢献するかを重視。例えば、しっかりした食感でも軟らかい食感でも飲食店側で調整できるよう製品の加工で工夫を凝らしている。
 個人向け製品にはブランド名「吉乃竹彦」を打ち出してBツーC(対消費者)向け需要の拡大も目指す。贈答用や土産用の製品もあり、百貨店や高級スーパーなどで扱われている。さらに今後は、使うのに簡単、便利な製品を開発して展開したい考え。「いつもテーブルにあり、これだけあればいいというような製品」(吉野社長)を目指し、「従来のメンマのイメージを打破したい」と意気込む。

吉野秋彦社長。メンマ製造を通じた地域貢献を目指す

地域資源の活用も

 吉野社長は地域との連携にも積極的に取り組む。問題となっている放置竹林の活用でメンマに注目する自治体で講演したり、高校生の商品開発に協力したりしてきた。
 放置竹林の管理と一体的にメンマの原料を供給する事業を興そうとしているグループが国内各地にあり、地元の糸島市や九州でも地域活性化の一環として同様の動きがあるという。吉野社長はそのような取り組みを積極的に支援しており、補助金の活用法なども含めてアドバイスすることもある。一般的なメンマにはマチクという種類の竹が使われる。だが国内の竹林の多くが孟宗竹という異なる種類。そこで吉野社長は孟宗竹を使ったメンマの製品化にも挑戦して実現してきた。地域の竹の活用に向けては今後も「応援していく」と話す。今後の事業拡大を視野に国産原料の調達先を拡大したい思いもある。地域によってさまざまな、竹の植生や事情、希望などに応じて後押ししていく考えだ。

DX活用し技術習得進める

 製造現場を中心に、デジタル技術を活用した経営改革、デジタルトランスフォーメーション(DX)にも挑む。
 メンマの主な製造工程には、収穫した材料をカットしてゆでて、乳酸発酵させて乾燥させた後の湯戻しがある。その中でもメンマの特徴である食感を左右する工程が湯戻し。目指す食感を実現するには温度や時間などの細かな調整が必要で材料の乾燥状態に合わせて対応しなければならない。従来「一定の技術を習得するまでに何年もかかり、ベテランの経験と五感に頼っていた」という。
 この工程を対象に、限られた従業員に頼ることなく、安定して実行できるようにさまざまなテータを蓄積中。これには福岡県工業技術センター生物食品研究所(福岡県久留米市)と連携している。将来は竹の産地の過去の気温や降水量など気象データから適切な加工を導き出したり、DXによる受発注の効率化にも挑戦したいとする。タケマンがDXを進められる理由について吉野社長は「創業して間もなかったことから取り組みやすい面はある」と自己分析する。

湯戻し前のメンマ

乳酸発酵し乾燥させた後の湯戻し作業

 ソーシャルメディアの活用にも前向きだ。注文にはLINEを使うほか、SNSの可能性にも着目。ラーメンファンは食後の感想をSNSを通じて発信する人が少なくないからだ。公表していないにもかかわらずタケマンのメンマを使用していることに気付くディープなファンもいるという。こうしたメディアの特性は、BツーC商品のPRにも効果的とみており、ウェブマーケティングの充実をは図るほか、将来的にはオウンドメディア(自社発信メディア)の立ち上げも視野に入る。

【企業情報】
▽所在地=福岡県糸島市加布里5丁目9-1▽社長=吉野秋彦氏▽設立=2013年9月▽売上高=1億9700万円(2020年9月期)