地域で輝く企業

モノづくり企業と気鋭のデザイナーが挑む日常を豊かにする商品

メタルヒートが打ち出す「AICHI DESIGN VISION」プロジェクトとは

AICHI DESIGN VISIONの製品発表会にはデザイナーも一堂に

 金属の光輝性を維持しながら、これに新たな機能を付与する熱処理加工を手がけるメタルヒート。製造業が集積する愛知県においてもとりわけ異彩を放つ。近年は、熱処理以外の事業も手がけており、中部地域でモノづくり企業のネットワークを広げている。

培ってきた熱処理技術 その先に

 熱処理金属加工は初期投資が大きい。原敏城社長は「たとえ小さな炉であっても投資額は1億円規模に達する。当社のように大型炉を採用する場合なら、さらに必要になるだろう」と明かす。そのため、多くの金属加工企業は導入した設備を減価償却した後も使い続けることが多く、結果として技術がコモディティ(汎用)化してしまう傾向にあるという。
 投資コストから来る参入障壁の高さに加え、ブラックボックス化しやすい技術にも理由がある。熱処理は見た目での変化を見分けづらく、専門性が高い技術領域でもある。
 同社は「世界一綺麗な熱処理工場」をうたい文句に、工場の清掃や生産工程を徹底管理。従業員と顧客双方が常に加工の状況や品質を確認し、記録を半永久的に保存する体制を整えた。前述のように「ブラックボックス化」しがちな部分も積極的に開示することで、信頼性を獲得することに成功した。受注も好調で、2021年4月には羽咋郡志賀町の能登中核工業団地内に新工場を稼働予定だ。

オンライン取材に応じるメタルヒートの原社長

 一方で熱処理加工を取り巻く収益環境は厳しい。とりわけ近年はエネルギー価格の上昇にも直面。次代に経営のバトンを継承するには新規事業に打って出る必要があった。

アフターコロナの暮らしを楽しく

 そこで生まれたのが、モノづくり企業の新事業支援を手がける子会社、AMN(愛知県安城市)が中心となり、地元企業の商品開発を支援するプロジェクト「AICHI DESIGN VISION(ADV)」である。独自技術を持つ企業と、技術に惹かれ、モノづくりに対する思いに共感した企業と新進気鋭のデザイナーをマッチングをつなぎ、暮らしに身近な商品を生み出す試みだ。
 2021年1月に発表された第一弾商品は「アフターコロナの暮らしを楽しくするモノ」がテーマ。参加したのは、自動車用樹脂部品を手がける鈴木化学工業所(愛知県幸田町)、木製枡(ます)の大橋量器(岐阜県大垣市)、切削加工のセイワ(愛知県西尾市)、段ボール製緩衝材の長江紙器(愛知県春日井市)の4社である。
 枡製のおひつ「COBITSU(こびつ)」は、四角形のモダンなフォルムはもとより、冷凍ご飯が炊きたてのように美味しくよみがえるのが特徴。このほか、自動車技術から生まれた軽くて割れない「十年急須」や金属の塊から削り出した石器のような開梱ナイフ「OOPARTS-001」、さらには、「親子のおうち時間の充実」をうたった工具不要の段ボールスツールが今回のプロジェクトを通じて誕生。先行予約販売はクラウドファンディングサイト「マクアケ」を通じて行った。

枡一筋70年の大橋量器が開発したお米がふっくら温まる「枡のおひつ

自動車の重要保安部品を製作する技術を生かして開発された「十年急須」

 わずか1カ月半ほどの期間で、約2000名から1400万円近くの応募があった。購入者からは「コロナ禍で奮闘した地元企業の活躍やプロジェクトの想いに共感した」といった声が寄せられている。これら4商品は4月下旬頃には一般販売も予定している。

背景にある「想い」

 実は取り組みの源流は10年ほど前の原社長自身の体験にある。当時、愛知産業界は「異業種連携」がブーム。現在も中部金属熱処理協同組合の理事長なども務める原社長も推進に尽力したものの、活動をめぐる考え方の違いもあり、活動を継続させることは困難だったという。
 その後、韓国の展示会に共同出展するなど、地道な活動を続ける中で、新たにしたのは、「異なる世界の人たちとつながる方が新しい価値が生まれるのではないか」(同)との認識。「一からモノを作り上げ、市場に投入することは当時から、思い描いていた」(同)と振り返る。

セイワが開発したのは石器のような開梱ナイフ。商品名には「場所や次代を超えて素材や技術が出会ったもの」との想いが込められている

おうち時間のアクティブティ、環境にも配慮した子ども向け組み立てスツール「corncob」

 新型コロナウイルスの感染拡大による世界的なサプライチェーンの混乱や受注減少に直面するモノづくり企業。今回のプロジェクトは、ビジネス環境の大きな変化に直面するなかで、新たな価値創造にどう挑むかという点においても、示唆に富む。4か月という短期間でオンラインで打ち合わせを重ね、それぞれが込めた「想い」を商品として具現化した。
 プロジェクトの第二弾として、「AICHI DESIGN VISION2021」に参加するデザイナーや企業の募集も予定している。企業からの問い合わせだけではなく、地方自治体から協力依頼も寄せられるなど、関係者の関心を集めている。
 長らく製造現場を下支えしてきた日本のモノづくり力に、斬新なデザインや新たなコンセプトが加味されることで、広がる新たな可能性。コロナ禍のなか、ライフスタイルや暮らしに対する価値観が変わりつつあるいま、長らく培ったきた技術力でこうした変化にどう応えるか。これまでの異業種交流とは一線を画す手応えを感じている。

【企業情報】
▽所在地=愛知県安城市東栄町5-3-6▽社長=原敏城氏▽設立=1973年5月▽売上高=12億円(2020年4月期)