政策特集福島の10年 vol.6

燃料取り出し 汚染水対策の進捗いかに 廃炉の最前線を歩く

東京電力福島第一原子力発電所ルポ【前編】

原子炉建屋の現状。左から1号機、2号機、3号機

 2041年から2051年までかかるとされる東京電力福島第一原子力発電所の廃炉作業。東日本大震災から10年を迎えたいま、作業はどこまで進展し、どんな課題に直面しているのか。3月9日時点の姿をルポする。

燃料取り出し本格化に向けて

 「2021年度上期にも大型カバーの設置工事に着手する見通しです」。東京電力ホールディングス福島第一廃炉推進カンパニー リスクコミュニケーターの松尾桂介さんの視線の先にあるのは、海側に向かい、立ち並ぶ4基の発電施設のうち、最北端に位置する1号機。これまで事故で崩落した建屋上部のがれき撤去作業などを進めてきたが、いよいよ使用済燃料プールからの燃料取り出しに向けた準備段階に入る。

大型カバーを設置し、大きながれきや崩落した天井クレーンなどを撤去した後、燃料取り出し予定の1号機

 使用済燃料プールからの燃料取り出しはすでに4号機と3号機で完了しているが、1号機と2号機はこれからだ。615体の燃料が残る2号機は、建物を解体せずに燃料を取り出すため、建屋南側に横穴を開けて装置を投入する計画だ。1号機は2027年度から2028年度にかけて、2号機は2024年度から2026年度にかけて、それぞれ取り出しが始まる見通しだ。

右手前(南側)に燃料取り出し用の構台を設置する2号機

2号機が持つ「意味」

 残存する燃料数が1号機よりも多い2号機だが、使用済み燃料取り出し以外にも、その存在は大きな意味を持つ。廃炉の最難関工程とされる、原子炉格納容器内で溶け落ちたデブリの取り出しは、2号機から始める方針で、今後を占う試金石となるからだ。
 なぜ2号機なのか。松尾さんはこう解説する。「他の号機でも検討が進められてきましたが、作業に必要な情報が最も充実していたからです」。
 格納容器内部は放射線量が高く、人が立ち入って作業することは不可能だ。これまでも遠隔操作ロボットを活用しながら内部状況を把握するための調査が行われてきた。2019年に行われた調査では、デブリと思われる堆積物をつまみ、持ち上げることができた。
 120メートルの高さがあった1号機、2号機の排気筒上部の解体工事も2020年5月までに完了した。激しい海風にさらされ、揺れる装置を操る難作業を担ったのは地元企業である。
 かつて防護服を身にまとい、視察用のバスで走り抜けた2号機と3号機付近も、現在では一般作業服姿で間近に見上げられるまでに、放射線量は減少した。20マイクロシーベルトごとに警告を発する設定となっている個人用線量計が、敷地内に滞在した3時間半あまりの間に上限の100マイクロシーベルトに達することはなかった。

1号機、2号機周辺の線量計

建屋を取り囲む遮水壁

 原発建屋周辺に目を転じれば、海側、陸側のそれぞれに埋設された遮水壁がこれを取り囲む。海側には鋼鉄製の杭、陸側は凍結管にマイナス30度の冷却液を循環させ、周囲の地盤を凍らせる凍土壁が全長1500メートルにわたり敷設されている。一連の工事は2018年9月までに完了した。

冷却水を循環させ周辺の地盤を凍らせるための凍結管

 燃料デブリを冷却させるための水は、格納容器内を循環させ、再利用しているが、建屋内に流れ込む地下水や雨水などが加わって、高い濃度の放射性物質を含んだ水が増え続けてしまう。「汚染水」と呼ばれるこうした水の発生を抑えることも廃炉作業を進める上で重要な課題となる。
 前述の遮水壁に加え、地下水のくみ上げや雨水の土壌浸透を抑える敷地舗装といった重層的な対策で、ピーク時には一日平均540立方メートルに上っていた汚染水の1日の発生量だが、2020年は同140立方メートルまで低減した。今後はさらに100立方メートルまで抑制することを目指している。
 一方で、これら対策を講じても、ゼロにすることができないのが汚染水である。そのためトリチウムを除く放射性物質の大部分を除去し、浄化したうえで敷地内のタンクに保管している。その処理に用いられる設備が、原子炉建屋から離れた陸側の高台に立ち並ぶ。
(後編に続く)