世界最大級の経済連携 その意義とビジネスチャンス
地域大のルール、自由化、円滑化
地域的な包括的経済連携(RCEP)協定の発効は日本企業にとって大きな意味を持つことになる。市場やサプライチェーンが地域全体に広がる中、日本にとって初めての経済連携協定(EPA)相手となる中国、韓国を含むRCEPは多くの企業に商機をもたらすことが期待されるからだ。今回は、日本にとっての意義をルールの整備、関税撤廃を中心に紹介する。
経済ルールの整備進む
とかく経済連携協定は関税面が注目されがちだが、貿易がグローバルに広がり、広範なサプライチェーンの構築がこれまで以上に重視される状況を踏まえれば、経済ルールの整備は避けて通れない。RCEPはルール面において現行の「ASEAN+1」FTAの枠組みなどと比べて、付加価値が大きい点が特徴のひとつだ。
例えば電子商取引の分野では、各国政府が、企業がビジネスを行う上で必要な情報の国境を越える移転を妨げたり、企業が海外に進出する際にその企業に対して、進出国内にサーバーやその他コンピュータ関連設備の設置を要求したりすることを原則として禁止する規定が盛り込まれた。
また、RCEP締約国に投資する際の条件として、原則として、技術移転や関連情報の開示を要求しない規定や知財権の使用料(ロイヤリティ)について一定の率や額を要求しない規律も導入された。こうした義務規律について中国やASEAN諸国の一部がEPAで約束したのは初となる。
製造業に幅広く恩恵
関税撤廃はどうか。工業製品に着目すると、日本以外の署名国14カ国全体で関税撤廃率92%を獲得(品目数ベース)。とりわけ中国と韓国との間では無税品目の割合が大幅に引き上がることになる(対中国8%→86%、対韓国19%→92%)。
品目別では中韓いずれも自動車部品が目立つ。例えば、中国への輸出ではガソリン車に使用される重要部品(エンジン部品:11年目または16年目に撤廃)、カムシャフト(16年目に撤廃)、エンジン用ポンプ(即時撤廃)などが対象になる。電気自動車用モーターやリチウムイオン蓄電池の電極・素材も順次撤廃される。自動車部品以外にも、鉄鋼や繊維織物といった日本の強みの一つである素材や、鉄器、陶磁器といった伝統産品の多くの品目についても、中国に対して無税輸出ができるようになった。
ASEANとの間ではすでに締結されているEPAに品目が追加された格好だ。こちらも、例えばカンボジアやラオスが日ASEAN包括的経済連携(AJCEP)では関税撤廃を約束しなかった完成車の関税を撤廃するなど、成長著しいアジア地域に対する日本からの輸出促進に大きく貢献することが期待できそうだ。
※ 上記に記載した品目については、関税撤廃されないものも一部ある。
「原産地規則」も柔軟に
ビジネスに活用されてこそのEPAだが、そのためには使いやすさが不可欠だ。RCEPは、輸出しようとするモノがどこで作られたのかを認定するためのルール「原産地規則」に柔軟性があることも特筆すべき点だ。
RCEPに限らず、EPAで関税の減免を享受するには参加国だけがメリットを受けられるように、域内で生産したことを証明しなければならない。工業製品は複数国で生産された部品や材料を組み合わせる場合もあるため、「原産品」と言えるか否かの判断が難しい。そこで「付加価値基準」、「関税番号変更基準」などの基準を設けている。
付加価値基準はある国での加工を通じて製品に加わった価値が一定の割合を超えた場合、その国で生産された原産品であると認める。関税番号変更基準は、貿易品目に分類されている関税分類(HS)番号が最終産品と部品・材料の間でどの程度変更されているかで判断する。
例えば自動車の基幹部品であるエンジンやギアボックスの場合、RCEP署名国が過去に締結したEPAでは付加価値基準を必ず満たさなければならない協定が多かった。一方、RCEPでは企業が利用しやすいように、付加価値基準か関税番号基準のどちらかを選択できるようになっている。付加価値基準も40%以上というものが多く、他のEPAなどよりも基準が緩い。また、複数国間での付加価値の累積も認められており、従来の枠組より利便性を高めている。RCEP締結国間で、より効率的なサプライチェーンを構築する上で、有効な規定となるはずだ。
言うまでもなく、関税撤廃やルールに合意しても、それらが協定発効後に履行されなければ、真の成果とは呼べない。
RCEP協定では、その発効後に設置される「合同委員会」において、協定の実施や運用に関する問題を検討し、解釈や適用に関して意見の相違が生じる場合に討議を行うこと等が規定されている。それに加えて、RCEP閣僚会合を原則として毎年開催すること、RCEP事務局を設置することなども定められており、これらを使って締約国による協定の着実な履行を確保することが求められる。また、協定の発効後5年ごとに行われる予定の「一般見直し」において協定の質を更に向上させるべく、各国の連携もこれまで以上に求められることとなろう。