政策特集DXが企業を強くする vol.4

先進企業の証「DX銘柄2020」にみるビジネス変革【前編】

選定35社の共通点とは

 
 「攻めのIT経営銘柄」あらため「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)」。経済産業省と東京証券取引所が実施している取り組みで東証上場企業の中から選定する、いわばDX先進企業の証である。前身である「攻めのIT経営銘柄」から数えて6回目となる今回は、2019年の前回より6社多い35社が選ばれた。中でも「業種の枠を超えてデジタル時代を先導する企業」とされる「DXグランプリ」に輝いたコマツとトラスコ中山の先進事例については次回記事で取り上げることとして、まずはDXに焦点を当てる形で刷新されたこの取り組みについて紹介しよう。

経営者の意識変革促す

 「DX銘柄」は、企業価値の向上につながるDXを推進するための仕組みを社内に構築し、優れたデジタル活用の実績が表れている企業を選定する。目標となるような企業モデルを広く発信することで、デジタル技術活用の重要性に対する経営者の意識変革を促す狙いがある。東証に上場する約3700社を対象とするアンケート結果を基に選定するもので、有識者らによって構成する評価委員会が業種ごとに「銘柄」を選ぶ仕組みだ。
 8月に発表された今年の選定企業のうち初選出は13社。鹿島建設、ダイダン、日清食品ホールディングス、中外製薬、AGC、ダイキン工業、ヤマハ発動機、トプコン、NTTデータ、住友商事、トラスコ中山、りそなホールディングス、GAテクノロジーズ。一方で5年連続受賞はアサヒグループホールディングス、ブリヂストン、JFEホールディングス、JR東日本、東京センチュリーの5社といった顔ぶれである。またDXの取り組みのすそ野を広げていく観点から「DX銘柄」にこそ選定されなかったものの、総合評価が高かった企業や注目される取り組みを実施している「DX注目企業」として21社が選ばれた。

選定項目見直しの狙いとは

 前年度まで行っていた「攻めのIT経営銘柄」との違いについて経産省情報技術利用促進課の大谷慧課長補佐はこう解説する。
 「選定項目の見直しにあたり、まずDXをこのように定義しています。『企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること』。つまり、ITを既存業務の効率化や省力化に活用するにとどまらず、社会に新たな価値を提供するようなビジネスを生み出すなど、企業としての持続的な成長につながるような変革が実現できているかに重きを置いているのです」。

経営戦略そのもの

 賢明な読者はもうお気づきかもしれない。ビジネスモデルの変革や競争上の優位性の確立。それは経営戦略そのもの。だからこそ、選定評価の枠組みは、経営の関与が重視される項目を中心に構成されており、経営トップがDX推進へ強くコミットしていることを求めている。
 「DX銘柄2020」評価委員会委員長を務めた一橋大学の伊藤邦雄CFO教育センター長も、「選定された企業は一様に経営トップがDXに積極的に関与している」と指摘する。
 ステークホルダーとの対話(情報開示)に前向きで、デジタル活用に秀でた企業の成長性には当然、株式市場も注目する。さらには投資家を含むステークホルダーとの対話を通じたガバナンス向上も期待できる。DXに対する注目や期待の高まりと相まって、「DX銘柄2020」選定のためのアンケート調査には過去最多の535社が回答している実情からも、こうした潮流がうかがえる。

 DXの必要性は認識している。しかし、一体、自社のどこに新たな価値創造の源泉を見いだせばいいのかー。とかく抽象的な議論や概念先行に陥りがちなDXだが、実際にビジネス変革につなげている具体的事例の中に、着想のヒントがあるかもしれない。建設現場の生産性を高める「スマートコンストラクション」を推進するコマツと、基幹システムの刷新を機に、顧客の需要予測に基づき、事前に商品を届ける新ビジネスを生み出したトラスコ中山の取り組みをみてみよう。
(後編に続く)