政策特集DXが企業を強くする vol.2

「何から始めたら」企業の悩みに応える「推進指標」

現状把握し踏み出そう

 
 これからの時代を生き抜く上でデジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みが必須であることを、すでに経営者の多くは認識している。しかし何から始めたらよいのか-。そんな企業がDX推進へ踏み出すツールとして活用してもらう狙いで経済産業省が策定したのが「DX推進指標」である。健康診断に例えれば問診票。現状と目指す姿とのギャップをまず明らかにした上で、その乖離を埋めていくための対応策について社内の認識を共有し、必要なアクションにつなげてもらう狙いだ。経産省のDX政策サイトの内容を確認した上で、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)のDX推進指標 自己診断結果入力サイトに掲載されている自己診断フォーマットを用いて自己診断を実施し、インターネット経由で回答を送付すれば、自己診断結果と全体データとの比較を可能にするベンチマークなどによる分析結果が提供される。さあ、最初の一步を踏み出してみよう。

経営のあり方や仕組みを問う

 「DX推進指標」は二つに大別される。ひとつは、DX推進のための経営のあり方や仕組みに関する指標。もうひとつはDXを実現する上で基盤となるITシステムの構築状況だ。いずれも経営者自身が回答することが望ましい九つの設問と、経営者が経営幹部や関連部門と議論しながら回答することを想定した設問に分かれている。定性指標はDX推進の成熟度を6段階で評価。定量指標については自社がDXによって伸ばそうとしている指標を選択して算出することを基本としている。
 例えば、「DX推進の枠組み」の設問はこうだ。「データとデジタル技術を使って変化に迅速に対応しつつ、顧客視点でどのような価値を創出するのか、社内外でビジョンを共有できているか」「ビジョンの実現に向けて、ビジネスモデルや業務プロセス、企業文化を変革するために組織整備、人材・予算の配分、プロジェクト管理や人事評価の見直しなどの仕組みが経営のリーダーシップの下、明文化され実践されているか」。これらを、なぜその成熟度と自己評価したのかの根拠とエビデンス(例えばIR資料や中期経営計画など)を基に回答する。

「What」を語る意義

 DX推進の前提として、まず経営の視点を重視している意義を経産省の飛世昌昭情報産業課課長補佐はこう解説する。
 「専門部署を設置するなど、企業の間ではDXへ向けた取り組みが加速していますが、実際のビジネス変革につながっているケースはそう多くないのが現状です。なぜか。例えば概念実証からビジネスへと発展しない要因のひとつには、往々にして顧客視点でどのような価値を生み出すのか『What(何)』が語られておらず、ともすると『AI(人工知能)を使え』などと『How(どのように)』から入ってしまう。トップが号令をかけるだけではコミットメントを示したことにならないのです。DXを根付かせるための経営としての『仕組み』を明確化し持続的なものとして定着させることが重要です」。

ビジョン実現の基盤としてのITシステム

 
 そして設問は「ビジョン実現の基盤としてのITシステム構築の枠組み」へと続く。既存のITシステムにどのような見直しが必要であるかを認識し、対応策が講じられているかを前提に、「データをリアルタイムなどで使いたい形で使えるか」や「部門を超えて最適に活用できるか」を問うている。日本企業の多くは部門ごとに個別最適でシステムを構築した結果、ブラックボックス化しているケースが少なくない。こうした現状を打開しない限り、データを新たな価値創造の源泉として活用することはおろか、変化への対応さえ危ぶまれるからだ。これら設問も前述の「DX推進の枠組み」同様、エビデンスに基づき成熟度を自己評価する仕組みとなっている。システム全体の構成図やAPI(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)一覧、システム間連携図を判断材料として想定している。
 これら自己評価は一見、煩雑に思えるかもしれない。しかし、DXへ向けた取り組みが産業界全体で進むなか、自社の「立ち位置」を客観的に知り、講じるべき方策や優先順位を認識しなければ、熾烈(しれつ)な競争のスタートラインに立つことさえできないのではないか。IPAは、各企業から収集した自己診断結果を元に、分析レポートを公表している。これらを参考に自社の立ち位置を知ることもできる。こうした施策を活用しない手はない。