CO2回収技術に魅せられたCRRA機構長村木さんが描く資源循環
直接空気回収技術(DAC)の先に「そらりん計画」
温室効果ガスの排出を2050年には実質ゼロとする目標を打ち出した日本。実現には省エネや水素エネルギーの活用拡大に加え、やむなく大気中に排出されたCO2を取り除く「ネガティブエミッション」も求められる。その候補技術として注目される「直接空気回収(DAC)装置」の開発をきっかけに、脱炭素社会の実現にまい進するのが、一般社団法人炭素回収技術研究機構(CRRA、シーラ)代表理事・機構長で、東京大学2年生の村木風海(かずみ)さん。もはや発明少年の域を超え、大手企業との連携も弾みにプロジェクトを次々、具現化しようとしている。
「ひやっしー」だけじゃない
「もはや『ひやっしー』だけじゃないんです」。開口一番、こう切り出した。当時、高校生だった村木さんを一躍有名にしたのは、取り込んだCO2をアルカリ性の水溶液に通して吸収する装置「ひやっしー」の開発。しかし、今や装置の性能アップにとどまらず、複数のプロジェクトが事業化前夜にある。
これまで家庭や学校で採用されてきた「ひやっしー」だが、車載タイプの実験も開始している。また、ユーザーが保有する装置を通じたCO2の回収状況をインターネット上でリアルタイムで把握できるシステムも年内にも稼働予定だ。さらに回収したCO2を航空会社のマイレージサービスのように蓄積し、ポイント換算できる仕組みの実現へ向け、カード会社との提携交渉も進む。集めたCO2が経済的価値を生み出せば「楽しみながら温暖化対策に取り組むきっかけになる」と期待を寄せる。
ローテクでありながら確実に削減
今でこそ、世界的な企業も注目するDAC技術だが、原理的には難しいものではない。CO2は酸なので、アルカリ性の溶液で吸収できるからだ。ただ、CO2は大気中にわずか0.04%しか存在せず、しかも分離回収にはエネルギーを伴う。企業にとってはこれまで事業化するだけの経済合理性を見いだせなかったのが実情だが、脱温暖化をきっかけに風向きは変わった。村木さんはこう続ける。
「大規模で高効率な装置開発は大手企業を中心に今後、進むでしょう。でも僕が興味あるのはローテクでありながら確実にCO2を削減できる技術です」。
言葉の裏には高校時代、CO2と水、アルミホイルでメタンを合成する未知の化学反応を広島大学との共同研究で発見した体験がある。「身近な材料でCO2が資源になるなんて。感動の瞬間でした」。
いま最も力を入れるのが、「CO2を取り出さずにカーボンリサイクルすること」。空気回収後のCO2が溶け込んだ水溶液で、塩分濃度の高い環境を好む藻類「スピルリナ」を増殖させ、その糖分でエタノールを精製。バイオ燃料への応用展開を目指している。藻類は成長段階で光合成を行いCO2を吸収するため、燃料として燃やしても実質的にCO2の排出量がゼロ、つまり「カーボンニュートラル」と見なされる。しかもトウモロコシやサトウキビから作る燃料と異なり食糧需給に影響しない。「空(そら)」からガソリンの代替燃料を作ることから「そらりん計画」と名付けている。
火星開拓につながるCO2回収技術
2020年4月に「炭素回収技術研究機構(CRRA)」を設立した。一般社団法人としたのは、利害関係のない自由な立場で、さまざまな企業と連携しながら自身の研究を社会に普及させたいから。前述のスピルリナ由来のエタノールも、ある化学メーカーと共同で首都圏に量産プラントを構える予定だ。
実験器具が所狭しと並ぶ研究室の一角には、舵輪や船長帽が。「自分で作ったバイオ燃料で運航する船を操縦したい」とすでに船舶免許を取得した。夢は空の世界にも広がっており、自家用操縦士の免許も取得中という。
CO2削減技術に突き進む原動力の裏には、幼い頃からの宇宙への憧れがある。「火星に住むにはCO2の除去が必要」。その発想がいまなお、心を捉えて離さない。脱温暖化への機運が高まる世界は、そんな純粋な好奇心から生まれる大胆な発想を求めているのかもしれない。「社会を変えるドミノの最初の一押しになりたい」と語る村木さんのバイタリティーには、自身の生み出した技術で、本当に宇宙に飛び立ちかねない説得力がある。