世界と手を携えて 日本が目指す脱温暖化への貢献
「Tokyo “Beyond-Zero” Week」で訴えたこと
「やや哲学的になるかもしれませんが」。リチウムイオン電池の開発でノーベル賞化学賞を受賞した吉野彰氏は、こう前置きした上で自身が描く革新的技術について切り出した。10月7日に開催された国際会議「ICEF(Innvation for Cool Earth Forum)2020」での一場面である。
それぞれが描く「革新的技術」
世界のカーボンニュートラルはもとより、過去に排出された大気中の二酸化炭素(CO2)削減をも目指す日本発のコンセプト「ビヨンド・ゼロ」。実現のヒントは「地球誕生から現在に至る二酸化炭素濃度の推移にある」と吉野氏は語る。
「地球誕生時点のCO2濃度は数十%だったと言われていますが、現在、400ppmまで減少してきました。CO2は酸性物質なので中和によって固定化されますが、残念ながら地上に存在する物質による中和反応は終わっています。可能性があるとすれば地中のアルカリ性物質にCO2を吸収させること。もうひとつは光合成生物です。この分野で大きなイノベーションが生まれれば既存のバイオマスとは異なる新たな可能性が見いだせるはず。個人的には吸収率の高い藻類に着目しています」。
こうした革新的な技術開発を、世界規模で推進する機運を醸成する狙いで開催された「ICEF2020」だが、技術の視点にとどまらず、イノベーションのアクセル役となる金融のあり方についても議論が交わされた。国連の責任投資原則(PRI)最高責任者(CEO)のフィオナ・レイノルズ氏はこう指摘する。
「投資家のエンゲージメントの結果、2030年までといった包括的な目標としてネットゼロ(CO2の排出と吸収をバランスさせること)にコミットメントする企業が欧州のみならずアジアでもみられるようになりました」。金融が果たす役割の重要性を強調した。
民間投資の促進後押し
9月下旬から10月初旬にかけては「ビヨンド・ゼロ」に関連する日本主催の国際会議が相次いだ。「Tokyo “Beyond-Zero” Week」と銘打ち、気候変動問題で世界に貢献する日本の姿を印象づけた。
民間投資の促進をめぐっては「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)サミット」が開催された。この中で経済産業省は、環境イノベーションに積極的に取り組む日本企業320社を公表。国内外の投資家に対する情報開示を通じて資金を呼び込む狙いだ。
世界のCO2排出量の約7割を占めるG20参加国を中心とした議論の枠組みでは、クリーンエネルギー技術分野における研究機関のリーダーが一堂に会する会合「RD20」がある。2回目となる今回は国際共同研究の創出に向けた環境整備で合意した。
カーボンリサイクルや水素でも
「Tokyo “Beyond-Zero” Week」を構成する一連の会議では個別の技術課題についても具体的な進展がみられた。CO2を素材や燃料として再利用する「カーボンリサイクル」をめぐって日米両政府は、技術情報の共有や専門家の相互派遣などで合意。両国の強みを生かし、技術開発や実用化を加速する方針を確認した。13日に開催された「カーボンリサイクル産官学国際会議」において、梶山弘志経済産業大臣が表明したものだ。
利用時にCO2を排出しない次世代エネルギーとして期待される水素にまつわる国際協調も、一層強固なものとなった。14日の「水素閣僚会議」では、コロナ禍においても水素社会の構築に向けた国際的な機運を維持、拡大するとの認識を参加各国および国際エネルギー機関(IEA)など関係機関の間で共有した。
経済成長と世界最高水準の省エネを同時に達成してきた日本。気候変動という地球規模の課題を克服するには、世界と手を携えイノベーションをリードする姿勢がこれまで以上に問われてくる。同時にそれは、世界の脱炭素化に貢献するのみならず、革新的な技術開発に拍車がかかり、日本の産業競争力向上に直結する。