統計は語る

改善進む企業の生産マインド 一時的な回復?それとも景気回復?


 経済産業省では、毎月初旬に、主要製品の生産計画を調べている。調査対象製品を製造する企業のうち、主要企業を対象に、その月と翌月の生産計画を調査している。
 今回は、8月初旬に調査した8月と9月の生産計画の状況と、8月初旬段階での企業のマインド、つまり生産計画や見込みが強気だったのか、弱気だったのかを紹介する。

8月の生産計画とその補正値

 8月の生産計画は、季節調整済指数で前月比4.0%の上昇を見込むという結果になった。この計画どおりに生産されれば、8月の鉱工業生産の実績は、3か月連続の前月比上昇となる。
 さらに、9月の生産計画も1.9%の上昇という計画になっており、4か月連続の前月比上昇も期待される。

 ただし、毎月、生産計画に対して生産実績は下振れする傾向にある。そこで、調査月の生産計画については、生産実績との間で生じる「ずれ」を統計的に推計し、補正計算を行っている。今回、8月の見通しについて計算したところ、8月は、前月比マイナス1.7%程度の低下になるという結果だった。

 ただ、ここ最近、企業が生産計画を策定するにあたり、新型コロナウイルス感染症の影響を充分に織り込むことが困難であったことが原因で、生産計画値と実績値とのかい離(実現率)が極端に大きくなるという傾向が見られた。
 その傾向は、5月及び6月調査、つまり4月及び5月の生産の実現率において顕著だったが、6月(7月調査)以降、実現率は通常の水準に戻っていることから、生産計画に及ぼす新型コロナウイルス感染症の影響による不確実性が小さくなったものと推測される。
 上の補正計算では、4月、5月の生産の実現率の大幅なマイナス幅の影響も受けているものの、6月以降、実現率が通常の水準に戻っており、鉱工業生産も6月、7月と、この補正値を大幅に上回る上昇が続いている。このことを考えると、8月の生産も、過去の傾向に基づいた上の補正計算ほどには計画値から下振れせず、7月比上昇となる可能性を考慮した方がよいと考える。

鉱工業生産指数に当てはめると

 生産計画の伸びを9月までの鉱工業生産指数に当てはめてグラフ化すると下のようになる。
 7月の鉱工業生産指数実績(確報)は87.2であるため、調査結果の伸び率4.0%をそのまま当てはめれば、8月の指数水準は90.7となる見込みである。
 さらに、9月の生産計画は、前月比1.9%上昇の見込みであることから、仮に8月の生産が計画通りに達成したとすると、9月の指数水準は92.4まで上昇することになる。
 ただし、生産計画に対し生産実績は下振れするという傾向的なバイアスがあることから、このバイアスを過去の傾向に基づき補正すると、前述のように下方に補正され過ぎている可能性を考慮する必要があるものの、8月の伸び率はマイナス1.7%程度となり、この場合、8月の指数水準は85.7と見込まれる。
 また、9月の生産計画も同様のバイアスがあることを考えると、9月の指数水準は、調査結果より低下することが考えられる。

生産計画の強気と弱気

 生産計画を、前年同月の実績と比較すると、この生産計画がどの程度、強気なのか弱気なのかを判断する一つの目安となる。
 8月の生産計画を原指数で見ると、前年同月実績比マイナス12.0%となり、7か月連続で前年同月実績を下回ることになり、低下幅は依然、非常に大きくなっている。
 ただし、生産計画の前年同月比のマイナス幅は、2月の生産計画以降、拡大してきたが、6月生産計画からマイナス幅は縮小に転じ、3か月連続での改善となっていることから、企業の生産マインドには改善の動きがみられる。

 また、1か月前時点で調べた生産計画が、生産開始直前に調べた生産計画と比べ、どの程度変動したかを示す数値が予測修正率となる。
 8月の予測修正率はマイナス0.4%となり、前回の予測修正率(7月:0.1%)と比べると下方修正となっているものの、本年1月以降の予測修正率と比べると小幅なマイナスにとどまっており、企業の生産マインドに改善の動きがみられる。

 生産計画を上方修正した企業数の割合から、下方修正した企業数の割合を引いた数値を「アニマルスピリッツ指標」と呼んでいる。この指標は、企業の生産計画の強気、弱気の度合いを推し量るために活用している。
 この指標の推移とこれまでの景気循環を重ねると、おおむねマイナス5を下回ると景気後退局面入りしている可能性が高いという傾向がみられている。先般、内閣府の景気動向指数研究会においては、2018年10月が景気の山と暫定的に認定され、同年11月以降、景気後退局面に入ったとされている。
 一方、生産計画の8月調査結果では、アニマルスピリッツ指標は4.2と、7月のマイナス6.4から大きく上昇し、マイナス5を上回ってプラスに転じた。2018年11月調査以来、実に21か月ぶりのプラスとなっている。月々の上下動をならしたトレンドでは、いまだマイナス5を大きく下回っているものの、8月調査ではトレンドでみても上昇に転じ、生産マインドに改善がみられる。
 このアニマルスピリッツ指標の急速な改善は、これまで新型コロナウイルス感染症対策によって抑えられていた経済活動が再開したことによる一時的な回復によるものなのか、それとも景気回復の表れとして今後も続いていくのか、その動向が注目される。

 8月調査では、強気の割合が増加した一方、弱気の割合が減少したことにより、アニマルスピリッツ指標は上昇となった。そして、強気の割合は31.8、弱気の割合は27.6と、強気が弱気を上回る結果となった。
 6月以降、国内外での経済活動再開の動きが進んだことで、新型コロナウイルス感染症の影響による先行きの不透明感が薄れ、企業の生産マインドも幅広く改善したものと考えられる。ただ、感染症の感染再拡大も国内外でみられるなか、今後も強気の割合が弱気の割合を上回る状況が続くのか、注目されるところだ。

 8月の調査結果では、前年同月実績比からは、生産マインドに弱気が見られるもののマイナス幅は縮小しており、また予測修正率やアニマルスピリッツ指標の動きを見ると、企業の生産マインドに改善の動きがみられる結果となった。
 6月以降、国内外での経済活動再開の動きと合わせて、企業の生産マインドの改善が進み始め、8月も、その傾向が続くこととなった。
 他方で、8月の生産計画は、6月、7月の生産計画と比べると、その伸び(前月比)は縮小している。また、このところの感染症の感染再拡大の影響にも注意する必要がある。このため、生産の先行きや企業のマインドに関しては、引き続き注視する必要がある。

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