政策特集ソーシャルユニコーン目指して vol.8

「主役は消費者」技術と仕組みで資源循環の輪を回す

日本環境設計会長 岩元美智彦さん

「繰り返し利用できる究極のケミカルリサイクル」に挑むと語る岩元さん


 この7月、レジ袋有料化に合わせて、JR東日本の駅ビルなど一部店舗で配布されたエコバッグがSNS上で話題を呼んだ。アウトドアブランド「スノーピーク」がデザイン監修した限定商品で、これまでエコバッグを持つ機会が少なかった層にも届けたいとの思いから実現したコラボである。
 このプロジェクトを共同企画したスタートアップ企業が日本環境設計。ペットボトルや衣類に含まれるポリエステル繊維を分解、精製することで、石油由来の樹脂と同品質のポリエステル樹脂を製造する独自技術を持つ。「BRING Technology」と名付けられたこの技術は、一般的なリサイクルでは困難な不純物除去に優れていることから、リサイクル素材でも石油原料から作られたものと同品質の樹脂として活用と再生を繰り返すことができるのが特徴だ。

楽しみながら取り組んでこそ

 大量に廃棄されている衣料を何とか循環できないかと会長の岩元美智彦さんが、大手繊維メーカーを経て日本環境設計を起業したのは2007年。リサイクルビジネスは、回収業務や処理技術を通じて社会を下支えする「黒子」的な印象が強いが、同社はこうした企業イメージと一線を画す。その裏には、リサイクルの意義や技術の優位性を声高に叫ぶばかりでなく、「それぞれの価値観やライフスタイルの中でリサイクルを『自分ごと』として実践してもらうことが大切。そのためには誰でも楽しく参加できる仕組みづくりが重要」(岩元さん)との思いがある。最先端の技術開発と並行して、数多く手がける話題性のある企画には「主役は消費者。いかに消費者を巻き込むか」の視点が貫かれている。
 映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」公開30年記念時には、古着を集め、それらに含まれる綿からエタノール燃料を作りタイムマシン「デロリアン」を走らせるー。日本マクドナルドとは「おもちゃリサイクル」を展開。使わなくなった子ども向けメニューに付いてくる玩具を回収し、店舗で使用するトレーに再生するプロジェクトを推進。メーカーに再生素材を提供するだけでなく、国内最大規模の古着の回収ネットワークを構築し、これらから作った100%再生ポリエステルのオリジナルアパレルブランド「BRING」も展開する。

「服から服をつくる」がコンセプトのオリジナルブランドBRING


 「リサイクルは強要することではない。ファッショナブルで機能的、『どうしてもほしい』と思わせる商品を生み出せばおのずと取り組みは広がっていきます」(同)。冒頭のエコバッグもこれを端的に象徴する。

資源循環が経営戦略になる時代

 同社と協業する企業姿勢も変わってきた。ペットボトルやプラスチック梱包材、衣類の原料となるポリエステル樹脂の需要は、新興国の人口増加や生活水準の向上に伴い、世界的な拡大が見込まれ、リサイクル原料の使用比率を高める動きが活発化している。加えてここへきて、資源の有効活用と経済成長の両立を目指す「サーキュラーエコノミー」やSDGs(国連の持続可能な開発目標)の観点からも、資源循環を経営戦略と位置づけ重視するようになってきた。実際、同社には自社の商品やサービスに再生素材を活かせないか、引き合いが増えているという。
 需要拡大を見越し生産能力の増強も進めている。北九州市のリサイクル拠点に続き、2018年には企業買収により川崎市にある世界最大規模のケミカルリサイクル工場を取得。21年夏の稼働を予定しており、ペットボトルの国内完全循環を実現する拠点と位置づけている。海外ではフランス・リヨンへの進出を目指し、工場建設も視野に入れている。

2019年のG20大阪サミットで参加国のファーストレディーに贈られたストール。海洋プラスチックごみを原料の一部として作られている

プラットフォームの意義

 素材やリサイクル技術開発を通じて、資源循環への取り組みを進めてきた日本だが、個々の取り組みを社会全体の仕組みとして発展、効率化させる上で取り組むべき課題はなお多い。とりわけサプライチェーンが広範にわたり、企業や自治体はじめさまざまな主体が関わるリサイクルシステムは、「どこかひとつが欠けては進展しません」(岩元さん)。
 だからこそ、技術と仕組みづくりの双方を提供する「プラットフォーム企業」の存在が重要になる。変わりつつある社会を前に、その手応えを感じている。