政策特集ソーシャルユニコーン目指して vol.1

広がるJスタートアップの活躍

コロナによる社会変容で新たなニーズも【前編】




 革新的な技術やビジネスモデルで成長を遂げるスタートアップ。産業構造や人々の価値観が変化するなか、とりわけ、社会が直面する課題解決につながるビジネスを手がける企業に対する期待は大きく、さらにここへきて、コロナ禍の社会変容に伴い顕在化する新たなニーズを捉える動きもみられる。スタートアップならではの着想や機動力で社会変革の一翼を担う有望企業の「いま」と、挑戦を後押しする関係者の思いに迫る。

139社それぞれの成長

 経済産業省が展開する「J-Startup(以下、Jスタートアップ)」。世界で通用するスタートアップを輩出するため、有望企業を集中支援するプログラムで、2018年6月の開始以来、139社が選ばれている。この中には、クモの糸をヒントに次世代繊維を開発する「Spiber(スパイバー)」や人工知能(AI)開発で大企業から引く手あまたの「プリファードネットワークス(PFN)」のように、市場から高い評価を獲得するユニコーン企業(企業価値あるいは時価総額が10億ドル以上の未上場企業)として成長を遂げている企業も少なくない。
 一見すると、AIやロボット、ドローン、宇宙関連など最先端技術を活用したビジネスが色濃く映るJスタートアップ企業の顔ぶれだが、実は地域経済に波及効果をもたらす資源循環ビジネスや環境・エネルギー関連、あるいは高齢化社会を支える技術や日常生活の困りごとを解決するサービスなど、事業の中身は多種多様。さらにここへきて新型コロナウイルスの感染拡大で社会のありようや生活の前提が一変したことで顕在化する新たなニーズやこれからの生活スタイルに応える技術やサービスへの期待も高まっている。

新型コロナの影響でスタートアップ関連イベントもオンラインで開催するケースも

 「社会のニーズは多様化しているからこそ、これらにきめ細かく応えるビジネスを展開するスタートアップが果たす役割は重要になっていくのです」。経済産業省新規事業創造推進室の古谷元室長はこう語る。Jスタートアッププログラムも開始当初こそ、スタートアップの社会的意義やロールモデルの創出に力点を置いてきたが、3年目を迎え、それぞれの事業ステージや成長戦略に応じた「支援の深化」が必要と考えている。

「多様なニーズの裏にスタートアップあり」古谷室長施策を語る




 「Jスタートアップ」プログラム開始当時は、スタートアップが果たす役割や起業という選択肢について、社会が十分認識しているとはいえない状況でした。世界に通用する企業もまだまだ少なく、だからこそ、国が有望企業を集中支援することでロールモデルを創出し、より多くの成功事例を発信していくことが必要な時期でした。
 他方、スタートアップ側からみると、国やあるいは大企業との距離感はまだ大きく、国の施策の活用や協業がすぐさま自社の成長に結びつくとの実感も薄かったように感じます。こうした中で、さまざまな支援策を活用してもらえるよう積極的に働きかけたり、大企業とのネットワーキングを促進することで、多少なりとも受け止められ方は変わってきたのではないでしょうか。
 こうしたなか直面するのが新型コロナの問題です。ビジネスに与える影響はさまざまですが、ひとつ言えることは、社会や暮らしの前提が変わったことで、新たなニーズが生まれ、これに応えるビジネスを展開するスタートアップの注目度は飛躍的に高まっている現実です。一例を挙げれば、Jスタートアップの中に、AIやIoT技術を活用して飲食店や商業施設などの混雑情報を配信するサービスを手がける企業がありますが、まさに三密回避策として関心を集めています。リモートでのコミュニケーションの際の相手の反応をAIで解析するといった事業を展開している企業にとってはビジネス変革の切り札として市場拡大が見込めるかもしれません。
 コロナ後の社会変容が生み出すニーズへの対応は、世界の共通課題であり、独自のビジネスモデルで世界に羽ばたける可能性を秘めているのです。(談)

 ※ 後編に続く。