政策特集グローバルサウスとの新結合 vol.5

キーワード「共創」。グローバルサウスと進める技術・人材協力の現在そして未来

成長著しいグローバルサウスの国々と、どのように関係を深め、彼らの抱える課題の解決をサポートし、彼らの活力を日本に取り込むことができるのか。日本は戦後、技術指導や人材育成などの協力を地道に行うことで、信頼を得てきた。

日本が地域の圧倒的経済大国だった時代から、日本のバブル崩壊を経て、東南アジアなどグローバルサウス諸国を巡る国際社会の状況が変化する中、協力の形も変化している。

「情けは人のためならず」――。現地の人々が自立的に参画し、現地の企業や産業の高度化を実現する協力を「真面目に」進めていくことで、結果として日本にとってもプラスの結果をもたらす。十数年後の世界を見据え、「共創」を模索する取り組みが始まっている。

「タイ版スマートものづくり応援隊」の創設を支援

グローバルサウス諸国との「共創」を目指す代表例の一つが、「タイ版スマートものづくり応援隊創設支援事業」だ。

DX(Digital Transformation)によるタイの産業高度化支援を目指し、2019年から主に中小企業を対象に展開している。生産現場などの業務改善やIoT(Internet of Things)・ロボット導入を支援する日本の「スマートものづくり応援隊」をモデルに、同様の人材をタイ自らが育成できるよう支援するというものだ。

具体的には、2019年度から4年間で、IoT化支援などにあたる現地のインストラクター約70人を育成。「生産性を向上させたい」「在庫管理を徹底したい」「人員配置の無駄をなくしたい」――といった、現地企業の悩みにタイ自らが自立的に対応できる体制づくりをサポートしてきた。

「共創」を目指してスタートした「タイ版スマートものづくり応援隊創設支援事業」※画像はイメージ

IoT活用など「タイ人によるタイのための支援」を目指す

バーンサオトン郡にある自動車部品製造メーカー「サイアムセネター社」では、タイ版ものづくり応援隊の支援を得て、倉庫管理の作業フローと材料データをWebアプリで閲覧できるようにすることで、一元的な管理を実現。これまで作業の重複などで生じていた無駄な経費を年間日本円で160万円程度削減することに成功した。製造部門でも、資材や生産の進捗、設備の稼働状況をリアルタイムで把握できるようにすることで、生産性の向上を実現した。また、これにより経営者の意識も高まり、IoTの活用を更に図るべく、経営方針の策定など積極的に進めているという。

「タイの人による、タイのための製品やシステムづくりを、日本の支援で進めているということです。こうした、長期的に現地のためになる協力関係づくりに、真面目に取り組んでいるのは、この地域では日本だけだと思います」

経済産業省技術・人材協力室の安生隆行室長補佐は、こう強調する。

「釣った魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えるのです」と話す経済産業省技術・人材協力室の安生隆行室長補佐

変遷する協力のあり方。「企業進出を後押し」「現地制度や規制改善」、そして……

戦後日本の技術・人材協力の歴史は1950年代に溯る。日本が高度経済成長を遂げていく中、政府開発援助(ODA)による技術協力プロジェクトを進める一方、経済産業省では日本企業の現地進出を後押しするため、現地の人材育成を進めた。

具体的には、一般財団法人「海外産業人材育成協会」(AOTS)が、現地工場のライン長クラスなど工場運営に必要な現地人材を日本に招き、必要な基礎知識の研修などを実施。また、「海外貿易開発協会」(JODC)は、日本人専門家を現地工場に派遣して、技術指導に当たった。これまでに育成した海外の産業人材はアジア地域の製造分野を中心に約40万人に上る。

更に、1990年代に入ると、民間企業の現地進出を後押しするだけでなく、現地日系企業が地元や他国の企業と公平に競争できるよう、日本政府から現地政府に働きかけて、制度や規制を改善していくという通商政策が重要性を増してくることになる。

そして、現在、地政学的リスクや不確実性が高まり、保護主義が台頭する中、技術・人材協力でもグローバルサウス諸国との連携・協調の重要性が高まっている。しかも、これから日米欧の影響力は相対化していく一方で、グローバルサウス諸国は人口増に伴い市場が拡大していき、世界経済により大きな影響力を持つと予想される。

そこで新たな理念となるのが、共に未来を創造する「共創」というわけだ。

日本によるグローバルサウス諸国への技術・人材協力の変遷

同志国と連携して臨む。「第三国協力」とは

今後の技術・人材協力はどう展開していくのか。政府が今、特に力を入れて推し進めているのが、自由、民主主義、基本的人権の尊重、法の支配といった普遍的価値を共有し、志を同じくする他国と連携して、グローバルサウス諸国を支援していく「第三国協力」だ。

同志国と互いの強みを生かして、各国のGXなどを支援しようというもので、例えば米国とともに両国の優れたシステム、ノウハウなどに関する研修を、ルールメイキングに関わる東南アジア諸国連合(ASEAN)の行政官らを対象に実施し、各国で実装を進めてもらうよう働きかけることなどを想定している。

「共通理念の下、同志国と一緒になって、価格だけでなく、製品やサービスの環境・供給面などでの持続可能性や信頼性といった、価格以外の要素が正当に評価されるビジネス環境を整備していくため、技術・人材協力を進めていこうというのが、『第三国協力』のコンセプトです」(安生室長補佐)

「情けは人のためならず」を愚直に実践

グローバルサウス諸国を巡っては、米中はじめ主要各国が影響力を強めようとしのぎを削っているという現実がある。

日本は何ができるのか。安生室長補佐は「情けは人のためならず」ということわざを引用する。「人に親切にすれば、相手のためになるだけでなく、よい報いとなって自分にもどってくる」――といった意味だ。

「日本は『モノを売って終わり』『労働力を活用して終わり』ではありません。技術協力・人材育成によってつくり出した製品やシステムを使って、これらをどう横展開し、ルール・制度にまでつなげていくかを現地の人と一緒に考えて実装する。それが我が国とグローバルサウス諸国との「共創」を実現し、サプライチェーン多元化・強靱化など日本の利益にもつながるのだと思います」

※本特集はこれで終わりです。