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ブロッコリーは「大樹」… 田中達也さんが生む”見立て”の世界は独特&無限

ミニチュア写真家・見立て作家 田中達也さん

波に見立てたブルーシートに乗るサーファー。雲に見立てた白米の上を飛ぶ宇宙船……。これらはミニチュア写真家・見立て作家の田中達也さんの作品だ。田中さんは、2011年から日用品や食品を別のものに見立てた写真を毎日SNSで発信。Instagramのフォロワー数は390万人を超え、国内外を問わず注目されている。2022年9月には、神戸空港に常設ミュージアム「MINIATURE LIFE × KOBE AIRPORT」をオープン。もうすぐ作家活動14年を迎える田中さんに話を聞いた。

双子の兄弟だからこそ工夫した、おもちゃのアレンジ

――― クスッと笑えるものから壮大なスケールのものまで、さまざまな世界を作品で表現している田中さんですが、幼少期の頃からミニチュアを何かに見立てて遊んでいたのでしょうか。

遊び自体は人並みだったと思います。ただ、僕には双子の兄弟がいまして、同じおもちゃをそれぞれ1個ずつ買い与えてもらえていました。そうすると、兄弟で違うおもちゃを交換して遊べないので、おもちゃの差別化をするために工夫をして遊ぶ場面が多かったかなと思います。例えば、ティッシュ箱の空き箱に人形を入れてバスにしたり、祖母の家に遊びに行った時は畳の縁(へり)を道路に見立ててミニカーを走らせたりしていました。

「日常のものを何かに見立てる」というのは、誰にでも備わっている能力だと思います。ただ、成長するにつれて忘れてしまうんですよね。僕が特別というわけではなく、それをもう一度思い出せるかどうかだと思います。

――― 田中さんが思う“ミニチュアの良さ”とはなんでしょう。

神様的な視点になれることだと思います。以前、小説家の方と対談した時に「自分でできないことが、文章の中だとできるからいい」と仰っていました。僕も、ミニチュアで同じように感じます。例えば、宇宙飛行士になるのは難しいけど、 宇宙で遊泳している風景を作るなら、そんなに難しくないですよね。

「地球は甘かった。」(左)と「無重力のように軽い毛糸」

あとは、ミニチュアは場所を取らないのがいいですね。日本は土地が狭いから、限られた空間の中で楽しめるものが好まれやすい。だから僕自身もミニチュアのおもちゃに行きついたのかなと。ドイツや香港でも、ミニチュアのおもちゃが盛んなのは土地の広さが関係しているのかもしれません。

子育てが転機になった、作家への道

――― ミニチュア写真家・見立て作家として生きていこうと思ったきっかけは。

2014年頃、勤めていた制作会社で副業を認めてもらい、企業から依頼を受けて作品を作っていました。その頃、ちょうど長男が生まれ、子育て真っ只中だったんです。妻も働き始めていましたし、「僕が家にいた方がいいかも」と思っていました。

いつしか、本業より作家活動の収入の方が上回るようになり、だいぶ忙しくなりました。家族、仕事、作家活動のすべてを保つのは難しくて、必要に迫られた感じでしたね。それで「ミニチュア1本でいってみよう」と決断しました。

家族のためにも、家で仕事ができる生活にして良かったなと思います。会社員だった時は夜遅くに帰ってくることもありましたが、今は自宅のアトリエで自分のペースで作品を作り、夜7時には家族と夕食を取ります。現在、妻は自宅で僕の会社の会計を担当してくれているので、子どもたちが急に学校を休んでもどちらかが対応できます。

――― 息子さんも、ミニチュアや何かに見立てることがお好きなんですか。

そうですね。2人の息子は、僕にアイデアを提供してくれることがあるんです。彼らの案を作品にして、展覧会に展示したこともあるから余計に嬉しいんでしょうね。ただ、僕が思いつかないアイデアを出すことが、子どもたちにとっては一番の課題かもしれません。最近の話だと、次男に「消しゴムを食パンに例えたらどう?」と言われて、僕が「真っ白くて四角だったら、豆腐の方が良くない?」と返すと、「なんでそんなの思いつくの!」と興奮していました(笑)

アイデアは1000個以上!? 毎日投稿の裏側

――― 田中さんはSNSに毎日作品を発表しています。アイデアのストックは1000個以上あるそうですね。

アイデアが頭の中に浮かんだ時点で、すぐにiPhoneのメモに入れるようにしています。iCloud上で管理しているのでいつでも検索できて便利なんです。メモの仕方は至ってシンプルで、箇条書きにして、その時に感じた評価を星の数で示し、1軍と2軍に分けてストックしています。

イマイチだなと思ったアイデアでも、あえて残します。なぜかと言うと、以前出したアイデアをすっかり忘れていて、同じアイデアを出している時があるんです(笑)。それに、「どうして良くないと思ったのだろう?」と吟味することができるので、出した案は消しません。

僕はアイデアを出した後に一旦忘れることも大事だと思っています。「いいものを思いついた!」と思って覚えておくと、そのことばかりにとらわれて、それ以上のものが出てこない。それは良くないと思うんです。

――― 田中さんのアトリエにある、作品に使用する材料も綺麗に整理されていますね。それもアイデアに関係するのでしょうか。

整理整頓も、ほしいメモがどこにあるのかがわかるようにするのと一緒です。作品に使う人形などは10万体以上ありますが、それらをいつでも取り出せるように、収納ケースに仕切りをしながら分けています。

田中さんのアトリエ。収納ケースが壁一面に整然と並んでいる

こういった習慣は、デザイナー時代に身に付きました。定位置を決めたり、ルールを明確にしたりすることが、アイデアを生み出す助けになると思っています。

ファンを巻き込むタイトルの生み出し方

――― 「体のサビを抜く手術」「鉄板やキー」など、スマートな見た目の田中さんから、ダジャレのようなタイトルが生まれていることにも面白さを感じます。

それには理由がありまして……。作品名を工夫するようになったのは、リアクションがほしかったからなんです。最初のSNSでの投稿では日付だけしか入れていなかったんですが、「いいね」は付くものの、コメントはありませんでした。「それならこちらから面白いことを言おう」と、「言葉の見立て」として、作品とともにタイトルを書くようになったら、コメント欄が大喜利大会のようになりました(笑)。

「体のサビを抜く手術」(左)と「鉄板やキー」

――― ファンとの間に交流が生まれたんですね。作品名は、いったいどのようにひらめくのでしょうか。

これはもう、言葉をたくさん出すしかないんです。僕は作品を撮り終わった後に作品名を考えます。以前は辞書を引いたり、ワード検索のサイトから言葉を集めてくることが多かったんですが、最近は、ChatGPTに作品のモチーフや風景に関係する言葉を50個ほど出してもらいます。それらの言葉同士を比べていくと、似ている言葉が見つかります。それを掛け合わせることで、先ほどのようなタイトルができ上がるんです。

自分の頭の中で言葉を探すには限界がありますからね。ただ、組み合わせるセンスは自分の中にないといけないので、言葉をどう料理するかが大切になってきます。

「MITATE」を世界に浸透させたい――

――― 海外のファンも多くいらっしゃいます。そこにはどんな理由があると思いますか。

「何かが何かに似ている」というのは、世界共通の感覚だからだと思います。僕は、どの国の人でも伝わるようなモチーフをなるべく使うようにしています。

SNSという媒体の特性もあると思います。言葉のメディアであるXでは僕のフォロワーは9割が日本人ですが、写真や動画が主軸のInstagramでは7割くらいが海外の方です。言葉が通じなくても、写真で作品を見て楽しめることが海外の人たちにウケる理由なのかなと思います。

「うまく着地できるのはひと握り」(左)と「テーピングカー」

――― 海外の展覧会では、「MITATE」と表記したロゴが印象的です。

“見立て”という言葉を、世界の共通語にできたらと考えているからなんです。海外で行う展覧会では「見立てには、こんな面白さがあるんだよ」と説明するようにしていますが、まだまだ浸透しきれていないのが現状です。

通訳の方には、「“見立て”をうまく翻訳できない」と言われます。英語なら「metaphor」、「resemble」、「similar」、もしくは「broccoli as tree(木のようなブロッコリー)」などと訳されることがあります。ただ、“見立て”という言葉通りかといったら、ちょっと違うなと思うんです。

日本語なら「医者の見立て」「見立てが甘い」など、選択や予測という意味合いもありますからね。日本独特の言葉なら、そのままローマ字で「MITATE」を認知してもらえたらいいなと思うようになりました。

そのためには、僕自身が“ミニチュア離れ”をすることも必要だと思っています。僕の作品の核となる部分が“見立て”であるということを、もっと発信していく必要があると感じています。

神戸空港に設置したブロッコリーを大樹に見立てた「ブロッツリー」や、香港で大きなサンタクロースの帽子で作ったクリスマスツリーなど、大きなモチーフにも挑戦しています。もちろんミニチュアの表現をやめることはありませんが、皆さんに「見立て=田中達也」と思ってもらえたら嬉しいです。

大きなモチーフも手掛ける。左は神戸空港に設置した「ブロッツリー」。右は香港のハーバーシティに展示した「マイホーム・マイほーん」

――― 「新しいことに挑戦したい」と考える読者の皆さんにアドバイスをお願いします。

誰かと同じことをしても、それだけではまねで終わってしまいます。言葉でも、作品でも、自分なりの表現がきっとあるはずです。たくさん想像力を働かせて、あなたにしかできないものに挑戦してほしいと思います。

田中達也(たなか・たつや)
ミニチュア写真家·⾒⽴て作家。1981年熊本⽣まれ。2011年、ミニチュアの視点で⽇常にある物を別の物に⾒⽴てたアート「MINIATURE CALENDAR」を開始。以後毎⽇作品をインターネット上で発表し続けている。著書に「MINIATURE LIFE」、「Small Wonders」、「MINIATURE TRIP IN JAPAN」、絵本「くみたて」など。