「現代生活のための衣服」、世界で勝機あり。本気のSDGsは最強の価値
CFCL代表兼クリエイティブディレクター 高橋悠介さん
Clothing For Contemporary Life――。その頭文字を取った「CFCL」は今、国内外から最も注目を集める日本のアパレルブランドの一つと言っていいだろう。その代表とクリエイティブディレクターを務めるのが高橋悠介さん(39)だ。パンデミック下の2020年2月創業。「デザイナー個人の美意識をこれ見よがしに表現するのではなく、現代を生きる人々の道具としての衣服という視点でデザインしています」と語り、環境に配慮した服作りにも力を入れる。陶器の柔らかな曲線を思わせるニットウエアで知られ、今年2月にはパリ・ファッションウィークの公式スケジュールの中でランウェイショーも初めて開催。業績は順調で、本格的な海外展開も開始している。社会的な課題と向き合いながら、衣服を創造し続ける想いとはどのようなものなのか? 日本のファッション産業の未来を照らすキーパーソンに話を聞いた。
――ブランドにデザイナーの名を冠することが多い中、「ユウスケ・タカハシ」ではなく、「CFCL」、日本語に訳すと「現代生活のための衣服」と一風、変わったブランド名にしたのはどうしてですか。
私個人の美意識が色濃く反映されたクリエイションをしたいというより、現代という時代や社会が求める服を作りたいと思ったからです。独立前、「ISSEY MIYAKE MEN」で約6年、デザイナーを務めていて、三宅一生さんから、ことあるごとに「意味のある服作り」に向き合う姿勢を教わったことも影響していると思います。
ファッション産業が環境や人権に与える悪影響がグローバルな社会問題となり、負の側面が取り沙汰されることがありますが、やはり衣服は人間の生活に欠かせないもので、着る人に大きな影響も与える。ファッションには身につける人の気持ちや考え方、そして行動を変える力があると信じていて、そのために服を作っていこうという想いをブランド名に込めています。
「ソフィスティケーション」「コンシャスネス」「コンフォート&イージーケア」がカギ
――高橋さんの考える「現代生活のための衣服」とは。
三つの大きな軸があると考えています。一つ目が「ソフィスティケーション」。様々な場面に適応し、流行に左右されないシンプルなデザインで、日本の技術とクリエイションが反映されていることです。二つ目が「コンシャスネス」。温暖化ガス排出と廃棄物を最小限に抑え、責任ある透明性の高いサプライチェーン(供給網)を維持すること。そして三つ目が「コンフォート&イージーケア」。多様な体型にフィットする伸縮性があり、自宅で洗濯可能な速乾性のあるアイテムであること。日々の生活からレストランまで対応可能なスタイルでありながら、手入れが簡単にでき、責任ある生産背景のもとに生まれた衣服であることが、私たちの考える「現代生活のための衣服」です。もっとも、こうした考え方で完璧というわけではなく、時代の変化に対応して、三つの軸をアップデートしていくことも大切だと思っています。
環境負荷の少ない3Dコンピューター・ニッティング
――そうした想いの中で、ブランドを象徴するニットドレスも生み出されたのでしょうか。
大学院時代に3Dコンピューター・ニッティングの技術を研究したことがきっかけです。私の描いたデザイン画を、プログラマーがデータ化して、編み機に入力すると服ができあがる。布帛やジャージーを使って服を作るときのように、裁断や縫製の必要がなく、製造過程で切れ端が出ないなど、環境に与える影響も少なくて済みます。
しかも、縫い代がないので着心地がよく、伸縮性もあって体型を選びません。畳んでもシワにならず、洗濯機で洗うこともできる。素材にもペットボトルを再生したポリエステルを中心に使っています。そうすることで、石油由来のポリエステルを使った場合と比較して、温暖化ガスを半分ほど削減することができるとされています。こうした再生素材や認証素材の使用率に加え、原料調達や製造過程などで排出されるCO2量も数値化して、シーズン毎に自社ホームページで公開しています。私たちの作っているニットウエアには、先ほどの三つの軸がバランスよく取り入れられています。
カジュアル化の流れに合った新しいニットドレスを創作
――しかし、ニット中心だと、品揃えに制限が出ませんか。
学生時代に3Dコンピューター・ニッティングと出会い、これで勝負したいと直感的に思いました。ニットにはカジュアルなイメージがありますが、この150年ほどの服飾史を振り返るとカジュアル化は進む一方。実際、明治時代のスーツはスリーピースが中心でしたが、戦後になるとベストがなくなり、現在はノーネクタイでスニーカーを合わせたビジネススタイルも一般的になりました。シャツの代わりにTシャツを合わせる人も目立ちます。なので、カジュアルと思われてきたニットには潜在的なニーズがあると感じていました。そこでニットで新しい時代のドレスを作りたいと思い、ファーストシーズンであるVOL.1から発表し続けているのが「POTTERY(ポッタリー)」シリーズです。結婚披露宴にニットを着て出席しても違和感のない時代が訪れていると思っています。
「Bコープ」の認証でグローバルな信頼を獲得
――服作りの過程で、環境に対する配慮に取り組んでいこうと思ったきかっけは。
独立を考えていた2010年代末、ファッション産業が過剰生産などによって環境に悪影響を与えていることが社会問題になっていました。一方で、客観的な根拠もなく「サスティナブル」を標榜するブランドもあり、「グリーンウォッシュ」と呼ばれる見せかけの環境対応の問題も指摘されるようになっていました。私たちが環境を含めた社会的な課題に真剣に取り組んでいることを第三者機関に認証してもらうことでより信頼を得られるのではないかと考え、Bコープの認証取得を目指したわけです。
Bコープはアメリカの非営利団体が行っている認証制度で、2006年から始まりました。審査が大変厳しいことで知られ、単に社会や環境への配慮だけなく、従業員や顧客、地域コミュニティーへの貢献や人権まで幅広く姿勢を問われ、世界100か国以上の計約9,400社が認証を受けています。海外のファッションブランドでは「クロエ」や「パタゴニア」が認証を得ており、CLCFは2022年7月に日本のアパレルブランドとして初めて認証されました。この認証によって、国際的な信頼を得られるようになりました。さらに2030年までにカーボンニュートラルの達成や、認証を受けた素材のみを使った服作りの実現を目標に据えています。
日本のファッションには十分なポテンシャルがある
――CFCLの製品は一部コラボレーションのアイテムを除き、ほぼ日本製。日本でのものづくりに力を入れているのはどうしてですか。
やはり、日本の地場産業を支えたいという思いがあるからです。環境への負荷を考えても、地産地消が好ましいわけですから。ただ、近年は輸出が好調なこともあり、地産地消の観点からは海外のお客様の近くで生産した方が好ましい状況も出てきています。現時点では「日本製」であることを重視していますが、状況の変化には柔軟に対応していくつもりです。
日本のファッション産業には未来に向けたポテンシャルが十分に備わっていると思います。それを発揮するためには、業界全体を高成長、高利益な体質に変えていくことが大切です。ファッションに関心のない人にとっても魅力的な業界になるためには、給与水準が高くなければなりません。具体的には「徹底した業務効率化」「カテゴリーキラー化」「明快なコンセプトとカスタマージャーニー」「最先端のSDGs」「最初からグローバル市場を捉えること」を実践してく必要があります。いずれも簡単なことではありません。しかし、日本のファッション産業が世界で存在感を発揮するためには取り組まなくてはなりません。そのために、私自身も微力ながら尽力していきたいと思っています。
――これからの活動や将来的な展望について教えてください。
幸いにしてビジネスは順調です。取引先は、国内が約50社、国外もほぼ同数。直営店も公式オンラインストアに加えて、2022年秋から実店舗展開し、既に東京と大阪に計4店舗を出店。来年はさらに路面大型店舗を含めた複数の出店が計画されています。また欧州でのさらなるビジネス拡大に向け、パリに子会社とショールームを兼ねたオフィスの新設を予定しています。
その過程で、私たちの作る服が社会に受け入れられ、インパクトを与える様子を目の当たりしてきました。グローバルな市場を意識すると、よりクリエイションに力を入れる必要があることも実感しています。ただ、基本はブレないようにしたい。社会に求められ、価値のある服をどうしたら作ることができるか――。仲間たちと様々な先進的な技術や知識を貪欲に取り入れながら、追究していきたいと思っています。
【プロフィール】
高橋 悠介(たかはし・ゆうすけ)
CFCL代表兼クリエイティブディレクター
1985年、東京生まれ。文化ファッション大学院大学修了後、2010年株式会社三宅デザイン事務所に入社、2013年に「ISSEY MIYAKE MEN」のデザイナーに就任。2020年に同社を退職し、「CFCL」を設立。2021年、毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞、FASHION PRIZE OF TOKYO 2022を受賞。2024年、Vogue Business 100 Innovators: Sustainability thought leaders の1人に選出された。