今どきの本屋のはなし

「作家、装丁家、編集者の思いがこもった」本の表紙を一覧できる店づくり コーチャンフォー

コーチャンフォーつくば店。外観は城をイメージしている

北海道と関東に10店舗を展開する書籍や文房具などの大規模複合店「コーチャンフォー」は、店舗での販売にこだわり続けている。広大な売り場も無人のレジを設けないのも、店に足を運んでくれる客を考えてのことだ。本好きの客の期待に応える一方、本にあまり縁がなかった人にも読書の楽しみを見出してもらえるように様々な可能性を探っている。

駐車場530台分、奥行き100メートルのフロアに在庫60万冊

つくばエクスプレス研究学園駅から約2キロ、大型スーパーや自動車販売店が点在する県道沿いに、530台分の駐車場を備えた「コーチャンフォーつくば店」(茨城県つくば市学園の森)がある。売り場フロアの端から端までは長辺で100メートルを超える。コーチャンフォーの店舗としては一番最近オープンしたつくば店は売り場面積約6,600平方メートルで、このうち半分が書籍売り場だ。在庫冊数は約60万冊に上る。それでも書籍売り場の面積はコーチャンフォーで最も広い新川通り店(札幌市)の8割程度だ。

3,300平方メートルある書籍売り場

「入社した当時、私も創業者の佐藤俊晴社長(現会長)に尋ねたんです。こんなに広い売り場が必要ですか、と」。コーチャンフォーを運営するリラィアブル(本社・釧路市)の専務取締役関東支社長・近藤隆史さん(60)が振り返る。

「装丁家や作家、編集者などの思いがこもった表紙は、商品としての力を発揮する。それを最大限に見てもらえるように陳列している」。これが社長の答えだった。

店に入ってすぐに目につく児童書コーナー。カラフルな児童書が表紙を見せて並べられている

入り口に最も近い場所にある児童書コーナーには、表紙が見える形で色とりどりの児童書が並ぶ。「児童書は出版文化に触れてもらうための入り口。どの店舗も入ってすぐの場所に児童書コーナーを設けています。広いスペースを使って表紙を見せて興味を持ってもらうことで、未来の読者を育てることにつながります」

文庫本は売り上げランキング112位まで表紙を見せる

単行本、文庫、新書などの新刊は、ジャンルごとにかなりのスペースを取って平積みで置かれている。読者に新刊書を紹介することも書店の重要な役割だと考えているからだ。

売り上げランキングのコーナーも書籍の表紙が見えるように置かれている

棚には売れ行きのランキングで上位に入った本が、表紙が見えるように並んでいる。ベスト10や20までではない。例えば国内文庫は112位まで、新書は41位までが順番に棚に収まっているのだ。「あの本がほしかったのになかったとお客さんを失望させるわけにはいきません。売れ行きの良い上位の本は補充が大変ですが」と近藤さんは苦笑する。

国内文庫ランキングの棚には112位まで並ぶ

同店によると、来店客は9割がた自動車で訪れ、徒歩や自転車もちらほら見かけるという。近藤さんは、「弊社は、北海道でも郊外型でずっと展開してきました。郊外型としての展開ノウハウを蓄積し、10年前に東京都稲城市に道外で初めて出店し、現在は繁盛店にまで育っています」と語る。

売り上げランキングの棚の前で妻と一緒に書籍を手に取っていた60歳代の会社員は「自分が探している本だけではなくて、いろいろな本に出逢えるのがリアル書店の魅力ですね。特にこの店はとても広くて本の数が多いので、楽しみが広がります」と話す。

接客マナーを鍛えるコンテスト ポイントは笑顔!

店に来てくれた客に満足してもらうために力を入れているのが接客マナーだ。年に1度、全店を通じての接客コンテストを行っている。これは、運営会社「リラィアブル」の佐藤俊晴会長が長年にわたって「接客」を重視してきた中から生まれた。コンサルタントなどには頼らず、手探りでいろいろと検討しながら始め、新入社員に限らず中堅若手スタッフの接客スキルの向上を目指して開催しているという。

予選、本選といった参加型のものではなく、接客を担当する教育担当役員が各店に出向いて審査する。そのため抜き打ちではなく、審査のために各店でスキルアップ教育を並行して実施している。上位者は全社会議で発表し、表彰しているとのことだ。

従業員が描いた漫画の一場面

コーチャンフォーの従業員が著した『コーチャンフォーの社員が漫画を描いてみた‼』(さくらい著、竹書房)には、コンテストで1位になった従業員に聞いた接客の秘けつも盛り込まれている。「接客で一番大切なことは何ですか?」と問われた優勝者は「身だしなみや言葉遣い、立ち振る舞いなど気をつけるところが多いけど、一番重要なのは『笑顔』です! 接客のベースはお客様の期待に最大限応えることだと思います」と答えている。

レジはすべて有人、客と読書の世界を広げるために

「本はどこでも同じ値段です。値引きできません。どこで努力するか。同じ値段なら、あそこで買おうと思ってもらえたらということなんです」。近藤さんの口調に力がこもる。

すべて有人のレジカウンター

つくば店のレジカウンターは9つあり、休日はフル回転だ。しかし、無人レジを設ける予定はない。客と話をする中で、「こんな本を探しているんだけれど……」と尋ねられることもある。客の読書の世界を広げるためには、直に接することが大事だという。

さまざまな工夫を重ねているとはいえ、本を売る側だけで出版不況を克服するのは困難だ。苦境を脱するために、どんな方策があるだろうか。

「優良な出版物が出ることですね」。近藤さんは即座に答える。「書店には本は作れません。著者や出版社が作ってくれたものを読者に届けるのが書店の役割です。買いたいとお客さんが思う本が出れば、お客さんは店頭に来ますよ」。もちろんネットで注文する人もいるが、一定の割合の読者は書店に来て実物を手に取って確かめるのではないかというのが近藤さんの思いだ。

「例えば、3年なり5年なり期限つきでもいいので、優良なコンテンツを作るための支援を経産省と文化庁が一緒に行うのも一つの方法です。文学賞の賞金を補助するというのも手だと思います。このままでは衰退するかもしれない出版文化という産業を支援していくことに力を入れてもらえれば」

もう一つは図書館の問題だ。現在の図書館はどのように利用されているか。ベストセラーの新刊本の予約が引きも切らずに入り、多くの図書館で「貸出中」になっているケースは珍しくない。「図書館でベストセラー本を新刊刊行時から複数蔵書で貸し出されては、無料貸本となり民業圧迫につながります。ひいては、著者も出版社も書店も影響を受けてしまいます。地域に根差した風土記や研究書など、一般の書店ではなかなか買うことができない本を置いておくのも図書館の役割ではないでしょうか」

近藤さんは、新刊書については館内での閲覧は自由にして、初版が出版されて3か月間から半年は館外への貸し出しが出来ないようにすることも一案ではないか、と提言する。

「本そのものが引き立つように棚も床も白にしています」と語る近藤隆史専務

「国が書店振興に乗り出したという千載一遇のチャンスですから、優良なコンテンツをいかにして生み出していくか、そして出版不況が続いている構造的な問題をどうするか。課題を洗い出して解決策を考えるきっかけになればいいですね」

コーチャンフォー(Coach&Four)
リラィアブル(本社・釧路市)が運営する。コーチャンフォーは4頭立ての馬車のことで、書籍・文具・音楽(CD、DVD販売)・飲食の4つの柱を表している。1997年に1号店として美しが丘店(札幌市)をオープンして以降、北海道に8店舗、関東で若葉台店(東京都稲城市)、つくば店の2店舗を展開している。つくば店は2022年10月に開店した。