局をあげて全力支援! イノベーション推進で稼ぐ未来
【イノベーション・環境局 総務課/イノベーション政策課/研究開発課】
担当者に聞く、新たに立ち上げたイノベーション・環境局のミッションとは。経済産業省という複雑な組織を「解体」して、個々の部署が実施している政策について、現場の中堅・若手職員が説明する「METI解体新書」。今回は、イノベーション・環境局の立ち上げに関わったメンバーに話を聞きました。
経済産業省が取り組むべきイノベーション政策とは
――― 今年7月の組織変更で新たに立ち上がったイノベーション・環境局で働く皆さんにお伺いします。イノベーション・環境局では、どのような政策を担当しているのでしょうか?
土川:イノベーション・環境局は、イノベーション推進やスタートアップ創出・育成の支援に関する政策的支援などの企画立案をするための体制整備を目的として、旧産業技術環境局を改称する形で、今年7月新たに発足した局です。旧産業技術環境局からの組織の変更点は、イノベーション創出に関する政策の更なる推進を目的として、「イノベーション政策課」を設置した点と、スタートアップ創出・育成の支援に関する政策の更なる推進を目的として、「イノベーション創出新事業推進課」を設置したことです。いずれも、我が国のイノベーション関連政策を一体的に推し進めていくことができるよう、体制の整備を行ったものです。
――― 皆さんはイノベーション・環境局の立ち上げに関わられたと伺いましたが、局の立ち上げのためどのような検討をされたのでしょうか。
佐藤:私は、組織改編の1年前に、前身の産業技術環境局に着任した際、「この一年で新しい局をどのように作っていくか中心となって考えてほしい」と言われました。新しい局を作るというこれまでやったことのない業務でした。一番苦労したのは、広範な概念である「イノベーション」をどのように捉えるのかでした。内閣府や文部科学省でもイノベーション推進政策を行っている中で、どのように役割分担をし、経済産業省がどのようなイノベーション政策を担っていくのか考えるのに苦労しました。イノベーションといっても本当に様々なイノベーションがあるので、省内の関係課だけでなく、省外の有識者の方を交えて議論をして、いただいた意見を咀嚼し我々の組織設計に盛り込んでいくという作業でした。
――― イノベーション・環境局のミッションを検討する中で、どのような議論があったのでしょうか。
佐藤:日本の研究開発が伸び悩んでいるところを一番危惧しています。「技術で勝ってビジネスで負ける」といった言葉が、これまでもずっとある中で、日本は技術は強いと言われがちですが、このままだとその技術でも負けてしまうというところに強い危機感を持っています。研究開発の投資が伸び悩んでいる現状をどうにか打破して、強いと言われている日本の技術力を伸ばし、海外を含め市場を取って日本産業を盛り上げていくためにどうするか、というのが議論のスタートでした。
多様なアプローチでイノベーション創出を後押し
――― イノベーション・環境局が立ち上がり、現在は局内でどのような業務を担当されているのでしょうか。
土川:私の所属している総務課では、局内の政策のとりまとめや、国会・総括案件などの対応を行っています。私自身は総括係長として、局内のとりまとめを行っているほか、業務改革にも取り組んでいます。イノベーションという名前を冠した局で、イノベーティブな企業を応援していきたいと言うためには、自分たち自身がイノベーティブな環境で仕事をしていかないといけないと思っています。具体的には、職員から広く課題を聞いて解決していくためのチームを発足させました。まずは各課室を回って職員から直接意見を聞くキャラバンの実施を進めていきたいと考えています。今後、局内で議論を加速化し、課題解決を進めていきたいと思っています。
局内には民間からの出向者も多くいますが、その方々からの意見も聞きながら良い取り組みはどんどん取り入れています。例えば、時間が長くなりがちな局長など幹部への報告は、15分以内と時間を決めて、幹部も説明者も時間を厳守する取り組みを始めました。スケジュールがずれ込むことがなくなり、効率的に業務が進められるようになったと好評です。Teamsやメールなど、普段使用する業務ツールの使い方をルール化して意識統一を図ったり、備品の取り扱い方法や会議室の装備スペックを整理し共有するなど、一つ一つは些細なことですが着実に業務効率化につながっています。さらに、コミュニケーションの加速化にも取り組んでいます。イノベーションの概念は広く、その政策は一つの課に閉じないことがほとんどです。局全体が一つの課のように連携していかないといけない中で、関係者が一体となって仕事を進めていけるような体制を構築するために、コミュニケーションを活発化させていきたいと考えています。そのため、局内職員の人となりを紹介するような「自己紹介シート」を作って共有したり、局長や審議官を含め、局内全員が参加できる懇親会の開催など、イノベ局がワンチームとしてつながれるような取組を進めているところです。
――― 佐藤さんは、イノベーション政策のとりまとめと共に、フロンティア領域の支援を行われているということですが、具体的にはどのような取り組みをされているのでしょうか。
佐藤:フロンティア推進室にも所属をしており、フロンティア領域の支援をしています。フロンティア領域とは、まだ大きく産業化はされていないけれども、この5年、10年で大きく飛躍するポテンシャル、可能性を秘めているような領域です。その中でも、今一番力を入れているのが量子コンピュータ分野です。量子技術自体は歴史あるもので、量子力学が発見されてから来年でちょうど百年になります。これまでは学問的なことが主だったのですが、量子力学を計算に使えるということがわかり、この5年ぐらい、国内外で非常に注目されている技術です。2019年頃、古典コンピュータで1万年かかる計算が、量子コンピュータでは200秒でできてしまうということをグーグルが発表したのがきっかけとなり、ビジネスの可能性があるのではないかという流れになりました。一方で、現在のコンピュータのレベルに達するにはまだまだ技術開発が必要なので、実用化、産業化するための道のりをどのように加速するかということを考えています。
――― イノベーションの創出には、研究開発に対する支援も欠かせませんね。
鈴木:はい、私の所属する研究開発課は、研究開発支援がミッションです。研究開発予算事業の取りまとめや研究開発税制、イノベーション拠点税制を所管しています。他にも日本版バイ・ドール制度や、技術研究組合制度を所管しています。日本版バイ・ドール制度は、米国のバイ・ドール制度を参考に作った制度で、国の委託研究開発により生まれた知的財産権を受託者に帰属させることができる制度です。これによって日本でも開発者のインセンティブを高めて、研究開発を促進させるのが狙いです。技術研究組合制度は、複数の企業や大学、独法などが協同して試験研究を行うことにより、単独では解決できない課題を克服し、技術の実用化を図るために大臣認可により法人を設立することができるという制度です。このように、研究開発の促進のため、様々な角度からアプローチしています。
私自身は予算担当として、目下、令和7年度に向けた予算要求への対応を行っています。具体的には、先ほどお話のあった、研究開発リスクが高いと言われているフロンティア領域の分野に、果敢に挑戦することを促すような事業や、若手研究者を官民共同で育成するスキーム作り、GX分野のディープテック・スタートアップの研究開発を支援するような事業などがあります。これらの事業は省内多様な部署が担当している事業のため、自局を超えて当省と関わりのある産業界や政策を横断的に把握する事ができ、研究開発という枠組みのもとで、政策の中身のサポートも含めて勉強できることが多いと感じています。
日本の技術力はすごい!担当者が感じるイノベーションの原動力
――― ご自身の担当業務分野で、特に注目してほしい政策はありますか。
鈴木:課内で検討を始めたトピックとして、スタートアップの研究開発の推進があります。スタートアップは大企業と比較し、経営資源に制限があるので、研究開発のハードルが高いという前提があります。イノベーションの源泉には研究開発の量と質が重要で、それを拡充するためには、これまでの研究開発のやり方に囚われることなく、新しい技術の研究開発に積極的に取り組むことが大事です。こうした状況の中、国の研究開発予算をより一層スタートアップにも活用していただくための検討を進めています。スタートアップやステイクホルダーへのヒアリングを進めると共に、省内の関係課とも連携し、スタートアップフレンドリーな予算事業の仕組みづくりを加速させています。
土川:各局・課の所掌にとらわれずに、本質的な政策課題への解決策の提示をしていく省内の政策立案プログラムがあるのですが、鈴木さんと一緒に参加し、イノベーション資源の流動化について課題解決に取り組んでいます。イノベーションを起こそうとするためには、人や設備、原動力となるような技術が必要で、こうした材料がイノベーションを起こす人のもとに集まってくる社会にしていかなければいけないと考えています。そのために何が必要なのか、省内の横断チームで議論を進めているところです。議論の大元となるイノベーション資源の流動化というのは、前身の産業技術環境局の時に議論しまとめられたものがあります。前体制の知見も活かしつつ、新たなメンバーも含めて政策を進めようとしているところです。これまでの経済産業省の政策の多くは日本の強みをどう伸ばしていくかに焦点を当てたものでしたが、私自身は、将来に日本が何で稼いでいくのかを考えることで、この令和の時代新たなイノベーション起こしていけたらと思っています。
――― イノベーション政策を推進する中での気づきもあったと伺いました。
佐藤:量子コンピュータの開発企業と意見交換する機会も多いのですが、その中で感じるのは日本の技術力ってすごいんだということです。海外は巨額の資金を導入している中でコンピュータを開発する中でも、1番コアとなるような技術は日本の力が必要になってくるという話を聞きました。仮に、市場としては海外を見ていたり、拠点を海外に置くことはあっても、最終的には日本の技術力だと感じているとおっしゃっていました。改めて日本の技術力の高さを感じましたし、行政官として支援する意義を感じました。
関連情報:
▶この記事で触れた政策など
・「イノベーション小委員会の中間とりまとめを行いました」(2024年6月21日)