地域で輝く企業

【京都発】はかりから事業を拡大、革新的技術で世界の「食の安全・安心」を支える

京都府京都市 株式会社イシダ

スーパーや食料品店に並ぶ菓子、サラダ、冷凍食品など袋詰めの商品のほとんどは、計量機器大手のイシダ(京都市)の計量、包装、検査技術が支えている、と言っても過言ではない。創業から130年余、圧倒的なシェアを誇る「組み合わせ計量機」の技術を核に「包む・検査する・表示する」といった分野に開発の幅を広げてきた。袋詰め、トレーパック包装、価格ラベル貼付などの装置、電子棚札、水産物用の「アニサキス検査装置」まで、顧客の課題を解決する革新的な製品を提供し続けている。それを可能にしているのは、要望を細やかに聞き取る姿勢と、実現する技術者の層の厚さだ。石田隆英社長(54)の成長戦略に迫った。

「組み合わせ計量機」組み立てラインの作業風景(滋賀県栗東市のイシダ滋賀事業所で)

農家の苦労を減らしたい…組み合わせ計量機の開発成功で世界企業に

イシダのはかりの歴史は明治時代に遡る。1893年(明治26)に日本最初の近代的計量法と呼ばれる「度量衡法」が施行され、尺貫法とともにメートル法が公認された。当時、事業家で京都府議会議員だった創業者・石田音吉が行政の依頼を受けて、衡器(はかり)の製造販売事業を始めた。1960年代、デジタル時代が到来すると、イシダはいち早く「電子式はかり」を開発した。

1968年ごろ、当時の「営業部隊」が農業分野のニーズを探っていたところ、高知の農業協同組合から「形や質量がバラバラのピーマンを一定の重量で袋詰めできる機械が欲しい」との要望を聞いた。従来は、最後の1個を手作業で取り替えながら重さを調整していたため、大変な労力がかかっていた。技術陣は「定量計量」の要望に応えるため従来のはかりに自動化技術と組み合わせ計算の発想を取り入れ、世界で初めての「組み合わせ計量機」を開発、1972年から販売を始めた。

「組み合わせ計量機」の仕組みはこうだ。重さの違うピーマンを、複数の計量器で量り、それぞれの計量値をコンピューターで組み合わせ、設定した目標重量に最も近い組み合わせを選び出し、袋詰めへと送り出す。計量物の投入から袋詰めまで、すべて自動で行う。

組み合わせ計量機の計算例:8個のピーマンの重さを瞬時に量り、合計が100グラムに近くなるように組み合わせる

それまで大きさや重さの異なったものを「定量計量」できる装置は世の中に存在しなかったため、「組み合わせ計量機」の登場は世界中に大きなインパクトを与えた。当時、出展した国際展示会では、驚きを込めて「モンスター」と呼ばれた。袋詰めする商品は、規定の重量以下になることは許されない。そのため、「定量計量」の精度が低いと、規定より余分に商品を入れて出荷するしかなかった。生産者にとっては、規定量どおりに高速で正確に袋詰めできる装置は待ち望んでいた仕組みだったので、「組み合わせ計量機」は瞬く間に広まり、世界標準のシステムとなっていった。スナック菓子、野菜、ソーセージ、総菜、凍った魚等々、食品を傷めず大切に扱う技術、食品の形状や粘着度に適した搬送技術など、世界中で開発に取り組んできたイシダの技術とノウハウは他者の追随を許さない。

顧客の要望に応えるため、「技術をストレッチし続ける」

「お客様のお困りごとをイシダの新しい技術で解決し、喜んでいただく」と話す石田隆英社長(京都市の本社で)

石田社長は5代目で、1997年に入社。取締役技術本部長、常務取締役を歴任し、主に製品開発、営業、経営管理を担当してきた。2007年、米国マサチューセッツ工科大学(MIT)経営大学院を修了し、取締役副社長を経て、2010年、社長に就任した。

計量機の市場はそれほど大きくない。イシダが成長を続けるために、どのような戦略をとっているのか。石田社長は「我々の主要な顧客は食品工場とスーパーマーケットです。そこに特化して、計量に関連する周辺自動化技術を実用化してお客様の役に立つ、という戦略を取っています」と説明する。

「ファミリアリティ(親和性)・マトリックス」という、企業が新規参入のリスクなどを検討するツールがある。縦軸に市場の「既存」「新規」、横軸に技術の「既存」「新規」を置いた数学的な行列の表で、進出しようとする市場や技術と、自社との親和性が一覧できる。

石田社長は、このマトリックスの「イシダ版」をつくり、「既存」の市場を中心に「新規」の技術を提供し続けるという戦略を立てている。「既存のお客様に真摯(しんし)に接していると、お困り事やご要望などが分かるようになります。ご要望に応えるために、我々は既存技術をストレッチして新しい技術で世の中にない製品を生み出してきました。そのために、優秀な人材の獲得、技術提携、大学との連携などを行い、社内の技術開発力を高めています」と語る。新しい技術を培うための陣容は手厚い。イシダの開発には5つの部、25の課、約50の係があり、社員の約4人に1人は開発設計者という布陣だ。

イシダが「はかり」の領域を超え、食品工場のライン全体に関わるきっかけがあった。「組み合わせ計量機」を導入した工場から「製造ラインが止まった」と連絡が入った。点検すると、問題があったのは計量後の「包装機」だった。製造ラインは稼働率の維持が大事で、ボトルネックがあってはいけない。工場の責任者から「イシダさんが包装機を作って、システムを構築できないか」と依頼を受けた。そこで、社内でプロジェクトチームをつくり、包装機を開発。次は混入異物を検出する「エックス線検査装置」など、お客様のご要望に応える様々な製品を開発していった。

計量から包装、検査、梱包まで開発した製品を有機的に連携させたトータルソリューションを可能にしている

食品スーパー業界向けに日本初の電子棚札を発売

食品スーパー業界へ向けては、はかりから始まり、肉や魚をトレーに載せてラップをかけ、重さを量って値段のラベルを貼り付ける包装機、POS(販売時点情報管理システム)レジスター、さらに「電子棚札」へと領域を広げた。

スーパーは以前から「売価違い」の対応に悩まされてきた。特売セールの後、通常の価格への戻し忘れなどで表示価格が異なると、客からのクレームにつながり、価格差による利益の損失もある。そこで、イシダは、ヨーロッパで普及しつつあった「電子棚札システム」を、スウェーデンのベンチャー企業と契約し、日本国内市場向けに商品開発し1998年から販売を始めた。小型液晶表示装置(現在の表示部は電子ペーパー)を陳列棚に取り付け、商品名や価格などの情報を店内の事務所などのコンピューターから無線で送信するシステムだ。価格変更が容易にでき、損失を削減できるだけでなく、店員による売価チェックやPOPの付け替えといった作業も大幅に減らすことができる。現在、イシダの「電子棚札システム」は全国のスーパーや家電量販店など、のべ4000店舗以上で導入されている。

4色表示対応の電子棚札、この他にもサイズバリエーションがある

さらに、2015年からは医療分野に参入した。電子棚札システムの技術を応用して、病院内の診察室の場所や、診察や会計などの順番を個別の患者に知らせる「外来患者案内システム」などを開発。パルスオキシメーター販売の国内最大手を買収し、2023年には「イシダメディカル財団」を設立するなど、医療現場の自動化・省力化にも乗り出している。

グローバル化とイノベーション、「はかりしれない」未来へ

石田社長は「社長就任から13年で連結売上高が倍増した。今後も成長を続け、2030年代半ばには売上高3000億円を目指す」と目標を語る。そのキーワードとなるのが「グローバル化」と「イノベーション」だ。

イシダは世界100ヶ国以上でグローバルに事業展開している。近年は、人口が急増して高い経済成長が見込まれるインド、アフリカ地域に注力している。2021年にはインドに工場を建設、食品を袋詰めする包装機を生産し、日本や欧米の進出企業や現地資本の食品メーカーに販売している。さらに2024年3月には、南アフリカの食品包装機メーカーを買収。今後、アフリカ市場に合わせた製品・サービスを提供する方針だ。

「イノベーション」では、既存の顧客である食品工場やスーパーの自動化・省力化に力を入れていく。石田社長は「世の中の当たり前が変化し、顧客の要望が変化するなかで常に独自のイノベーションを起こし続け、製造工場や物流システムなどの効率化などに貢献してきました。少子高齢化による人手不足の課題は我々が解決できる。将来は食品工場の完全自動化を実現させたい」と意欲的だ。

イシダの未来は「はかりしれない」。

【企業情報】▽公式サイト=https://www.ishida.co.jp/ww/jp/▽社長=石田隆英▽社員数=4266人(グループ全体)▽創業=1893年