運も実力のうち? 実力も運のうち?
~RIETIレポート~
「運も実力のうち」とも「実力も運のうち」とも言われますが、能力と功績のどれくらいが運によるものでしょうか。独立行政法人 経済産業研究所(RIETI)のレポートを紹介します。
「先天的な」運、「後天的な」運
所得格差による機会の不平等など、生まれる前に決まっている運が実力に影響する-。そうした問題意識に基づき、格差是正や機会平等を進める政策は、様々な場で議論されています。
ここで言う運は、いわば「先天的な」運と言えます。そして、ご承知のとおり、運は生まれる前にも後にも、私たちの人生に影響を及ぼしています。例えば仕事でいい上司に恵まれたことで、仕事へのモチベーションが上がり、スキルが磨かれ、昇進も早いかもしれません。
こうした「後天的な」、特に初期の運が、後に大きな差を生む可能性があることが、経済産業研究所(RIETI)の研究で示されました。
公平性を重視する競艇で検証
検証に使ったのは競艇のデータです。競艇では、使用するモーターの勝敗への影響が大きいため、主催者がモーターをランダムに選手に割り当てています。つまり、選手の属性(才能も含めた遺伝的な性質や家柄などの環境的要因など)に関係なく、皆等しい確率で「当たり」を引くことになります。そのため、平均を取ると、運が良かったグループとそうでないグループの違いは純粋に運だけ、ということになります。
競艇選手にみるバタフライ効果
このように公平な条件で実施される競艇で、早い時期に運のよかった選手と、そうでなかった選手を時系列で追跡比較したところ、成績に大きな差が生じました。
男性選手の場合※、早い時期にラッキーなモーター(エンジン)が当たった選手は、そうでなかった選手と比べ約4年間で総1着数69%増、総収入48%増の成績を挙げていました。
※女性選手はサンプルが少ないなどの理由で除外。
初期条件の微小な変化が長期的に大きな影響を及ぼすことをバタフライ効果といいます。「後天的な」初期の運により、「成功」→「自信・機会の増加」→「更なる努力」→「成功」というループが起こり、後に大きな差となるバタフライ効果を引き起こしたといえるでしょう。
運だけで将来が決まらない社会へ
この研究では、能力や属性、個人の特性が同じ状態でスタートしても、「後天的な」初期の運によって後の結果に大きな差を生む可能性が示されました。運だけで将来が決まらない社会、初期の運に恵まれなくても、何度でもチャレンジができ自信を取り戻せる社会づくりが、改めて重要と言えるかもしれません。
【独立行政法人経済産業研究所(RIETI)】
RIETIは、理論的・実証的な研究とともに政策現場とのシナジー効果を発揮して、エビデンスに基づく政策提言を行う政策シンクタンク。詳細は経済産業研究所HP参照。