政策特集デザインで織りなす経済と文化 vol.3

グッドデザイン賞は進化する!

審査を通じて優れたデザインを「発見」し、Gマークと共に社会と「共有」して、新たな「創造」へとつなげていく日本独自のデザイン評価・推奨システム「グッドデザイン賞」。1957年に通商産業省(現・経済産業省)が創設し、98年に民営化、現在は公益財団法人日本デザイン振興会が主催する。これまで計18万件近くを審査し、5万件以上がGマークに選ばれた。近年は社会の変化に伴い、「デザイン」の意味や役割が拡張し、単なる製品の見た目や機能だけでなく、持続可能性やダイバーシティーに配慮した製品や活動なども広く審査の対象になっている。経済成長著しいアジアを中心にグッドデザイン賞の制度そのものを紹介し、新しい国際協力の形としても注目されている。

家電製品などの商品はもちろん、建築やシステム、そしてサービスなど有形無形を問わず人と社会、環境のためにつくられたあらゆる分野がグッドデザイン賞の審査対象。約90人の審査委員が審査を行い、受賞作品にはGマークが与えられる。応募は例年4月から始まり、書類と現物の審査を経て、10月に受賞作が発表される。今年度の受賞結果も10月5日発表され、5447件の応募に対し、1548件が受賞。25日には、その中からグッドデザイン大賞1件が選ばれる。

10月25日、2023年度のグッドデザイン大賞は「老人デイサービスセンター 52間の縁側」に決定した。

「人間的・社会的・産業的・時間的」4つの視点で作品を審査

応募のカテゴリーは、生活用品や情報機器などに加え、建築やメディア・コンテンツ、そして地域の取り組み・活動まで19種(2023年度)。賞創設当時は「機器」と「雑貨」が主体だったが、時代の変化に伴い、近年はシステムや活動といった無形デザインのカテゴリーが増えてきている。

ユーザーへの配慮などをみる「人間的視点」、新たな文化の創出への貢献などを観点にした「社会的視点」、新技術による課題解決などを吟味する「産業視点」、そして時代に即した改善の継続などを重視する「時間的視点」の四つの視点で応募作品を審査する。それぞれのカテゴリーで優れた応募作にグッドデザイン賞が贈られる。特に優れた100件が「グッドデザイン・ベスト100」として選出され、その中から大賞と金賞、そしてグッドフォーカス賞が決まる。

広がる応募カテゴリー、多様化する「有形・無形」のデザイン

グッドデザイン賞から見る日本のデザインのあゆみ(日本デザイン振興会提供)

応募カテゴリーが年々増えていったように、グッドデザイン賞の歴史も時代の変化を色濃く反映してきた。同賞が創設された1957年以降は戦後復興から経済大国へ歩み始めた「復活の時代」で、炊飯器や掃除機などの家電製品が多く選ばれた。1970年代以降は高度経済成長の波に乗り、ソニーのウォークマンや本田技研工業の乗用車シビックなど海外市場を席巻した商品が選ばれる一方、心の豊かさに主眼を置いた商品が出始めた「ジャパンオリジナルの時代」。80年には「グッドデザイン大賞」、時代を超えてスタンダードであり続ける商品やサービスなどを表彰する「ロングライフデザイン特別賞(現・ロングライフデザイン賞)」も創設された。

90年代以降は、景気の停滞や国際情勢の変化、そして震災などを反映した「価値変化の時代」となる。98年にはグッドデザイン賞の運営が民営化され、デザインの対象もモノ中心から情報やメディアなどに広がっていった。さらに2000年代に入るとICTが普及し、「価値観多様化の時代」に突入。10年代以降は、東日本大震災を契機に足元のデザインを見つめ直し、対話によってデザインを探求する「共有の時代」となった。

近年は民や官、家庭と職場といった境界の曖昧だった部分に目を向ける「コモンズ」や「デザインの民主化」が大きなキーワードとして浮上。さらに「サスティナブル」や「ダイバーシティー」、「防災」、そして「ニューノーマル」など、デザインが持続可能性にもたらす役割を模索した商品や活動などもグッドデザイン賞に選定される機会が増えている。「審査対象は年々多様化していますが、実社会とのかかわりのあるプロダクトやサービスを審査対象とするグッドデザイン賞の核の部分は変わっていません」と日本デザイン振興会事業部課長の秋元淳さんは話す。

海外デザイン賞と連携、「新しい形の国際協力」として注目

60年以上の歳月を重ねバージョンアップを続けてきたグッドデザイン賞は近年、海外のデザイン賞との連携・協力も目立つようになった。特にタイ、インド、シンガポール、トルコ、インドネシア、フィリピンといった新興国のデザイン賞と事業連携を結び、グッドデザイン賞のノウハウ提供や運営・プロモーションの協力を積極的に行っている。こうした取り組みは、日本のソフトパワーを活用した新しい国際協力としても注目を集めている。国もこうした取り組みを後押し、民営化後もグッドデザイン賞を後援し続け、大賞には内閣総理大臣賞、金賞には経済産業大臣賞をそれぞれ与えている。

2018~22年まで審査副委員長を務め、23年4月に審査委員長に就任したクリエイティブディレクター(パノラマティクス主宰)の齋藤精一さんは、今年度のグッドデザイン賞のテーマに「アウトカムがあるデザイン」を掲げる。「グッドデザイン賞をデザインに関わる人が進むべき北極星として位置付けています。それがアウトカムです。そこから、デザインを生み出すプロセスや、創造の根底にあるさまざまな哲学や挑戦を読み解くことも意識しています」と齋藤さん。今年度の大賞の候補には、パナソニックの電動シェーバー「PanasonicラムダッシュパームインES-PV6A」やトヨタ自動車の乗用車「プリウス」、そして徳島県で行われている学校をつくるプロジェクトの集合体「神山まるごと高専」の取り組みなど五つが選ばれ、10月25日にこの中から大賞が決まる。「モノ・コトの境界線を越え、社会をより良い方向へ変革させていく大きなうねりを起こしていることを審査の結果から感じ取っていただけると考えています」と齋藤さんは話している。

審査委員長の齋藤精一さんは、グッドデザイン賞はデザインに関わる人が進むべき北極星だという

10月25日から29日まで東京ミッドタウン(東京・赤坂)で受賞作を展示。全受賞作を紹介するのは4年ぶりとなる。会期中には、受賞商品を販売するポップアップストアも期間限定でオープンする。詳しくはグッドデザイン賞のホームページで。