時事問題はこう考える! サピックス岡本講師が語る「子どもたちに伝えたい4つの視点」
今、世界で起きている出来事や国内の政治・経済・社会のニュースを幅広く取り扱う「時事問題」は、就職や資格試験だけでなく、近年は中学入試問題にも数多く取り上げられるようになりました。大人から見ると「少し難しいかな?」と感じるような時事問題に対して、子どもの頃から自身の意見を持ったり解決策を提案したりする経験は、子どもたちが将来に向けて生きていくうえで大切な「眼」を養うことにつながることでしょう。
8月の政策特集は「試験に出る経済・産業」をテーマとしました。夏休みのこの時期、このサイトで通常ご紹介しているエネルギーや環境問題への国の施策などを、分かりやすく親子で語り合っていただけるような構成で取り上げます。
時事問題を子どもたちの生きた学びにする
第1回目は、時事問題をより生きた学びとするためのヒントや親子で話し合う意義やメリットなどについて、進学教室・サピックス小学部で社会科を担当する岡本茂雄さんへのインタビューをお届けします。
――― 子どもたちが時事問題を学ぶ意義とは?
時事問題は、世の中で起こっていることであり社会科そのものです。社会の今を学ぶことは、過去からの変化を学び、未来を構築していくことにつながります。子どもたちは、狭い社会、狭い範囲の中で生活しています。しかし、時事問題を学ぶことで、世の中のさまざまな出来事に目を向けることができ、そうした出来事に数多く触れることで視野は大きく広がります。そして、これまで自分の目線でしか物事を把握できていなかった子どもたちが、さまざまな立場や視点から物事を考えることができるようになります。
――― 時事問題を考えるうえで大切な視点は?
子どもたちによく話しているのは、「比較の視点」と「変化の視点」です。例えば、日本の高齢化の現状は他国と比較して初めて、そのスピードが明らかになるといえるでしょう。また、コロナ禍の前後で生活・産業がどう変化していくのかということを考えることで、その本質をとらえることにつながります。さらに、「逆の視点」を意識することの大切さも伝えます。物事にはメリットとデメリット、正の側面と負の側面が必ずあるということです。
このほか「立場の違いの視点」も重要です。同じ出来事でもそれぞれの立場によって見え方は違います。例えば『地産地消』という方法を農家の立場から見るのと、消費者の立場から見るのでは違いますよね。こうした4つの視点を意識しながらニュースを見ることで、子どもたちは多角的に物事を考えることができるようになると思います。
――― 子どもたちが時事問題に興味を持つためには家庭ではどんなことができるでしょうか?
まずニュースに触れることです。テレビのニュースを一定の時間、流したり、子ども向けの新聞を目につくところに置いたりするとよいでしょう。子どもたちが「これってどういうことなのかな」と興味を持つものが少しでもあれば、その時がチャンスです。親子で一緒に考えてください。
例えば、「卵の価格が上がった」というニュースは、子どもたちにも身近に感じられると思います。卵をはじめ、なぜ物価が上がったのかを考え、そこからロシアのウクライナ侵攻、円安、輸送コスト、人手不足、コロナ禍からの回復、異常気象といったさまざまな背景が浮かび上がり、視野が広がっていきます。
子どもたちが興味を持ったものであれば、どんなテーマでもいいと思います。親御さんの考えも伝えて「あなたはどう思う?」と問いかけてみましょう。大人だと当たり前だと思うことでも、小学生の子どもたちは疑問に感じることがあると思います。そんな時は、ぜひその素朴な疑問に付き合ってあげてほしいと思います。また親御さんがニュースに興味を持っていると、お子さんも同じように興味を持つことは非常に多いと感じます。
少子化にメリットはない?さまざまな視点から社会課題を考える
――― 現在の社会課題について授業では、子どもたちにどのように問いかけていますか?
例えば、日本の経済・社会に大きな影響を及ぼす少子化について、その重大さを授業でも伝えています。ただ、子どもたちには、世の中で一般的に言われる問題点を単に伝えるだけでなく、「では、少子化にメリットはないのか?」など、さまざまな問いかけをしています。実際、子どもたちからは、「省エネになる」「土地の値段が下がる」「AIがあるから大丈夫」といった答えが返ってきます。このように子どもたちの多様な視点には驚かされることは少なくありませんが、こうした視点から新たな解決策が生まれる可能性もあるのではないでしょうか。
電力供給の問題では、「エネルギーミックス」といわれる発電のエネルギー源の構成から見ていきます。その際に、安全性、安定供給性、経済効率性、環境適合性の4つの点からみて、火力、原子力、水力、太陽光、風力発電などが、どう評価されるのかを考えていきます。それぞれの発電のメリットやデメリットを理解し、そのうえで各エネルギー源のバランスをみていくということです。また、近年の日本のエネルギーミックスの移り変わりと社会の変化について考えたり、フランスでは原子力、カナダでは水力の割合が多いなど、他の国と比較する視点も大切にします。
――― これからの時代を生きる子どもたちに身につけてほしいことは?
現代は多様性、ダイバーシティの時代といわれています。多様性を尊重する社会において、さまざまな立場の人に寄り添える人になってほしいと思います。そのために授業では、「君が内閣総理大臣だったら…、都知事だったら…どうするか」と問いかけ、置かれている境遇や立場などを想像することの大切さを伝え、考えてもらっています。
実際に中学入試でも、「日本に働きに来た外国人とその家族の人権を守るためには、どのような政策や活動が必要だと考えられますか。君が考える政策や活動の内容とそれが必要である理由を説明しなさい」(麻布中学校から抜粋)など、自分とは異なる状況の人にどれだけ寄り添って考えられるかが問われる出題がなされています。
子どもたちには、立場が違うと物事が違って見える、見えている世界が違うのだ、ということを日頃から意識し、自分とは違う誰かの考えを想像できる力を身につけてほしいと思っています。
首都圏・関西に50教室を展開する進学教室・サピックス小学部で社会科を担当する。中学入試問題の分析と次年度の出題傾向の解説には定評がある。新聞記事を題材に時事問題を学ぶウェブサイト「じじもんスクラム」の編集長としてもおなじみ。