地域で輝く企業

ニッチだけど奥が深い「耐熱鋳鋼」のトップ企業へ

栃木県矢板市の日光金属

日光金属の本社・片岡工場(栃木県矢板市)


 600℃から1000℃を超える高温環境で使われる耐熱鋳造品。鋳造業界で同分野に強みを持つメーカーが栃木県矢板市の日光金属だ。自動車部品の熱処理などに使われ、「NIMA(ニーマ)」の商標で国内トップシェアを握る鋳鋼製トレーのほか、熱処理治具やゴミ焼却施設用部品なども展開する。栃木の地でニッチ技術を育むことで、さまざまな領域の課題解決に貢献している。

研究開発・製造・販売まで一貫対応

 高温環境下で使用される耐熱鋳造品の多くは、半年~1年などの一定期間で交換が必要で、消耗品として扱われる。さらに、製品が使用される条件は多様であり、多品種少量生産が中心だ。過酷な環境に耐え得る品質はもちろん、耐熱・耐摩耗性などの性能、安定した製品供給が求められる。

 同社は、こうした製品の製造・販売を一手に担う。片岡工場では木型加工から鋳造・後工程まで一貫して手がける。販売は子会社サンコーマテリアル(栃木県矢板市)が担い、鋳造や顧客の業界の専門知識を持った担当者が対応する。こうした「製販一体」体制を業界でいち早く取り入れ、設計開発の段階から顧客や取引先との信頼関係を築いてきた。

片岡工場の鋳込み工程


 耐熱鋳鋼や鋳造に関わる研究開発にも力を入れている。「NIMA中央研究所」を組織し、合金などの基礎研究や鋳造分析、製品開発、自動化などに取り組む。「決まった消耗品を提供し続けるだけでなく、自社の鋳造技術を高めることで多様な課題の解決ができるはずだ」。佐藤正太郎社長は事業にかける思いをこう語る。

現場の課題解決に貢献

 一定期間での交換が必要な耐熱鋳造品は、長寿命化することで交換頻度を低減できる。設備の維持管理の負担軽減や、停止によるロス削減につながる。例えば、ゴミ焼却炉の燃焼室の底部に置く火格子は、一般的なものだと高熱にさらされ続け設置から1年ほどで一部がすり減る。交換・修繕は焼却炉の停止が必要で費用がかかり、作業者の負担も大きい。同社は2020年に高温下の減肉量を従来品の約6分の1に抑える合金材料を開発。ゴミ処理施設用の火格子に鋳造することで、交換・修繕頻度を大幅に削減し各自治体の修繕費を軽減できる。

 新たな発想を取り入れることで、加工現場の課題に応えたものもある。メーカーに継続供給している鋳造品の一つに自動車部品用の熱処理治具がある。その新たな製品として、耐熱鋳鋼と炭素繊維複合材料と組み合わせた「CCハイブリッド」を開発した。鋳鋼製の治具と比較して重さが約5分の1で、耐久性も向上させた。高温の熱処理が行われる真空炉では、大きなエネルギーが必要で多量のCO2排出を伴う。炭素繊維複合材料との組み合わせにより、炉内の昇温時間を短縮できCO2排出量を削減できるという。

耐熱鋳鋼と炭素繊維複合材料を組み合わせた熱処理治具「CCハイブリッド」のサンプル


 製造業をはじめとする企業はいま、カーボンニュートラルへの対応が本格化しており、CO2排出につながる設備管理や製造・加工の効率化は課題の一つだ。こうした耐熱鋳造製品は、一般の消費者からは見えにくい現場の改善や課題解決を支えている。

優れた鋳造技術を次世代に

 2021年には新たな5カ年の中期経営計画を策定した。主な取り組みとして、砂型の造型ラインを入れ換え作業自動化や品質の安定化を進めるほか、鋳込みなど他工程も順次見直していく。一連の設備投資と効率化の取り組みで、矢板工場の鋳造能力を現状比約2倍にあたる月産120トンに高める計画だ。

 「今後は生産能力が高まるごとに、さらに人材が必要になる。これまで以上に、雇用面で地域貢献ができるはずだ」(佐藤社長)と意気込む。同社は約9割が地元(栃木県)出身者で、県内から新卒者も継続的に採用してきた。「地元で働きたい人に加え、金属工学に興味がある人を広く受け入れ丁寧に育成していきたい」と方針を語る。

日光金属の佐藤正太郎社長


 開発面では、ニッケルなどの含有量を高め耐熱・耐摩耗性に優れた合金材料の研究を続け、火格子や熱処理治具などの長寿命化につなげる。省エネルギー化などのメリットを訴求し、高付加価値製品として育む方針だ。

 「我が国では優れた鋳造技術が代々受け継がれてきたが、残念ながら鋳造を手がける国内企業は減少傾向にある。長寿命化を実現できる付加価値の高い材料・製品を世の中に送り出すことで事業を発展させ、日本の鋳造技術を次世代に残していきたい」と佐藤社長は語る。栃木を拠点に社会のさまざまな課題と向き合いながら、日光金属の耐熱鋳造技術はこれからも進化し続ける。
 
 
【企業情報】
▽所在地=栃木県矢板市片岡2066-2▽社長=佐藤正太郎氏▽売上高=17億円(2021年9月期)▽設立=1989年(平元)12月